解説 ―独自の世界にひたる―

小貫雅男(監督・撮影)

輝く朝が播き散らしたものを、
すべて連れ返す宵の明星よ。
あなたは羊を返し、山羊を返し、
母のもとへ子を連れ返す。

(サッフォー断片104 藤縄謙三 訳)

世界史の転換期に

私たちは、21世紀を目の前にしたあの10年間、世界の歴史の大きな転換期に生きてきた。この転換への激動は、世界の中心部にとどまらず、地球の辺境といわれる地域にもおよんでいくのであるが、そこで惹起された問題は、何も解決されずに、今に残されたままである。

1980年代、ソ連・東欧にはじまるペレストロイカの波は、内陸アジアの草原と遊牧の国モンゴルにも押し寄せ、遊牧の社会主義集団経営ネグデル体制は、かげりを見せはじめていた。

地域再生への模索

1989年11月のベルリンの壁の崩壊は、決定的なインパクトをもって、やがてモンゴルの全土を市場経済のうずに巻き込んでゆく。旧体制の崩壊の中から、地方では伝統的な遊牧共同体ホタ・アイルの再生への動きがはじまり、新たな「地域」の可能性があらわれてくる。

こうした世界史の大きな転換期の中にあって、ツェルゲルの人々は、自らのいのちと暮らしを守るために、新たな「地域」再生の可能性をもとめて模索をはじめたのである。

山岳・砂漠の村 ツェルゲル

ツェルゲルとは、モンゴル国のバヤンホンゴル県ボグド郡ツェルゲル村のことである。モンゴルがアジアの片田舎であるとするならば、ツェルゲルは、そのまた片田舎の一小地域社会である。首都ウランバートルから南西へ750キロ。大ゴビ砂漠地帯に連なるゴビ・アルタイ山脈の中の東ボグド山中にある東西40キロ、南北20キロの範囲に広がる遊牧民60家族が暮らしている小さな村である。

この村の東の高山部には、3500メートルの東ボグド山頂が聳え、西にゆくにしたがって低くなる。遊牧民たちは、比較的低い西の麓近くの標高1500~2000メートル一帯に冬営地をかまえ、初夏をむかえると、東の3000メートル級の緑濃い高山部に移り住む。両者の間を上下の移牧をおこなって、四季折々の自然の変化を実に巧みに使いわけて暮らしている。四季を通してほとんど山岳地帯を利用しているので、家畜はヤギが圧倒的に多い。

土着の“共同の思想”をばねに

このツェルゲル村がある広大な砂漠と山岳からなるボグド郡の中心地には、オロックという湖がある。この岸辺には、郡役所、病院、小中学校、郵便局、売店などの施設がある。人口1000人ぐらいの小さな田舎町を形づくっている。しかし、この町はツェルゲル村からは70キロも離れたところにあるので、ツェルゲルの人々は、これらの公共施設を事実上利用できず、郡内の最東端の山中にあって、ひっそりと暮らしている。こうした地理的条件もあって、ツェルゲル村はボグド郡の中では、孤立した存在ではあったが、かえってそのことがこの村を、最も自立心の旺盛な土地柄にしてきた。

こうした土地柄もあって、ツェルゲルの人々は、旧体制の厳しい監視下のもとにあった時から、自立への動きをはじめたのである。世界の動きから遠く離れたこうした山中にありながらも、ツェルゲルの人々は、土着の“共同の思想”に裏打ちされた極めて先進性豊かな“協同組合構想”を、秘かに心に描き、その実現への手がかりを模索していたのである。

つつましく生きる生身の人間

この作品は、1992年の秋からはじまる一年間のツェルゲルの人々のこの“模索の動き”を縦糸に、ツェルゲルの四季折々の自然と、その中に生きる遊牧民の暮らしの細部や人々の心のひだをも組み込みながら、独自の世界を美事に紡ぎ織りなしてゆく。

この“模索の動き”のいわば縦糸を紡ぐツェルゲルの人々。その中のリーダーの一人であるツェンゲルさん(35歳)とその家族。生活の辛さも満面に笑みを湛えて吹き飛ばしてしまう肝っ玉母さんのバドローシさん(31歳)。自然の中に溶け込むようにして飛びまわる次女のハンド(7歳)や食いしん坊の御曹司セッド(5歳)。ツェンゲルさんよりも年上で、彼とは苦楽を共にしてきた同志でもあり、貧乏ではあるが誇り高い“没落貴族”のアディアスレンさん(42歳)とその家族たち……。

これら次々と脳裡に甦ってくる作中のどの人物をとってみても、海の向こうの人々とは思えない。身近で、親しみ深く、等身大の生身の人間として立ちあらわれてくる。

乾燥しきった大砂漠の中の山岳地帯。疎らにしか生えないわずかばかりの草をヤギたちに食べさせ、その乳を丹念に搾り、チーズをつくり、乳製品や家畜の肉を無駄なく大切に食して命をつなぎ、つつましく暮らしているこれらの人々が、なぜか気高く映るのである。

ツェルゲルの人々の姿に21世紀の光明を見る

一方、断片的でこま切れな情報の氾濫と喧噪に刺激され、際限なく拡大してゆく欲望と消費と生産の悪循環の中で、あくせくと働き、精神をズタズタにされてゆく現代人。その末路がどんなものであるのか、そのことが漸くおぼろげながら見えはじめてきた時、貧しくもつつましく生きるこのツェルゲルの人々のひたむきな生き方に、幽かな21世紀への光明を見た思いがしたのかもしれない。いつしか、この作品の独自の世界に、どっぷりと浸ってゆく。

天体の運行に身をゆだねる暮らし

“輝く朝が播き散らしたものを……”ではじまる冒頭の詩は、古代ギリシャの女流詩人サッフォーの作によるものである。朝に東から太陽が昇り、夕べに西に沈むこの天体の運行に身をゆだね、自然の中に溶け込むようにして日々繰り返しおこなわれてきた、家畜たちと人間たちとの共同の営みは、ギリシャの地においては少なくとも二千数百年の昔から、そしてモンゴルのこのツェルゲルの大地では今日においても受け継がれ、時空を越えて、この地球の悠久の広がりの中で、えんえんと繰り返され、何とか今に継承され保持されてきたことになる。

人間にとって大切なものとは

人間にとって本源的で大切なものは何かと問われれば、それは、迷うことなく、今日の私たちには僅かにしか残されなくなったこの原初的な部分である、と答えるであろう。作品『四季・遊牧 ―ツェルゲルの人々―』は、人類が僅かではあるが保持してきた、この本源的なるものの底に潜む思想の核心部分を、現代に今、甦らせることの大切さと同時に、そのむつかしさを伝え、人間がますます大地から離れてゆく現代の傾向に対して、精一杯の警鐘を打ち鳴らし、人々に再考を促そうとしているのかもしれない。

ご感想

これまで私たちは、全国各地で『四季・遊牧 ―ツェルゲルの人々―』三部作全6巻(7時間40分)の「お弁当二つの上映会」や、DVDダイジェスト版『四季・遊牧』の上映&学習の集いを行ってきました。

街のホールや公民館、学校、図書館などで開かれるこうした会のご参加者のみなさんからは、たくさんのご感想をお寄せいただいています。
これまでに寄せられたご感想から、ほんの一部ですが、旧サイトでご紹介していますのでどうぞご覧ください(こちらへ)。

みなさまのご感想・ご意見も、ぜひ、里山研究庵Nomadまでお寄せ下さい。

お寄せいただいたご感想を、今後、当ホームページでご紹介させていただく場合には、前もってご本人のご承諾を得たいと思います。

様々な地域の、様々な世代のみなさんからのご感想を、お待ちしております!

『四季・遊牧』の上映 & 学習の輪の広がりを

人々の出会いが
語らいが、21世紀の明日をつくる!
津々浦々に
あなたが主催の
上映&学習の輪の広がりを!

家族の方々や、地域の人々、職場の仲間たちと一緒にこの作品を鑑賞し、思いをともにわかち合う空間を共有してはいかがでしょうか?いわば、あなたが主催の“ミニ鑑賞会”の開催です。

今日の私たちの衣・食・住のことや、子どもの教育、文化、地域のあり方など、暮らしをあらためて見つめなおし、未来をともに語り合うことができるならば、それはあなたの周囲の人々への最良のプレゼントにもなるはずです。

都市や農山漁村の各地で、このような“ミニ鑑賞会”が新たな“ミニ鑑賞会”を生み出し、その輪を広げてゆくとき、今日の巨大マスメディアに抗して、21世紀にふさわしい、自らの手による新しい映像文化の創造を可能にする。それは、やがては、私たち自身の暮らしをもつくり直してゆくにちがいありません。

みなさんが上映&学習会を計画される際には、これまでの経験をもとに、プログラムの組み方や映写の技術的問題などについてご相談に応じ、ご協力させていただきます。里山研究庵Nomadまで、お気軽にご連絡ください。

上映&学習会のプログラム例、これまでの上映活動歴など、さらに詳しい情報は、記録映画『四季・遊牧』のページをご覧ください。

各地にユニークな集いが自主的に芽生え、素晴らしい活動に発展していくことを願っています。里山研究庵Nomadは、その様子をホームページに掲載し、多くの人々と情報を共有していきたいと思っています。

最新刊『グローバル市場原理に抗する 静かなるレボリューション ―自然循環型共生社会への道―

海図なき時代に贈るこの一冊

人類の目指す終点は
遙かに遠い未来である
それでも、それをどう描くかによって
明日からの生き方は決まってくる

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題名 グローバル市場原理に抗する 静かなるレボリューション ―自然循環型共生社会への道―
著者 小貫雅男・伊藤恵子
出版社 御茶の水書房
発行年月 2013年6月
判型・ページ A5判、369ページ
定価 本体3,800円+税
ISBN 9784275010353

 21世紀人々は大地への回帰と人間復活の高度自然社会への壮大な道を歩み始める。

 週休五日制の「菜園家族」型ワークシェアリングのもと、家族を、そして地域を基盤に築く市場原理に抗する免疫的自律世界、大地に根ざした精神性豊かな生活世界の創造。
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ブックレット『森と湖(うみ)を結ぶ 菜園家族 山の学校』

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題名 森と湖(うみ)を結ぶ 菜園家族 山の学校
著者 小貫雅男・伊藤恵子
発行 里山研究庵Nomad
発行年月 2009年
判型・ページ A5判、106ページ
定価 頒価:200円(送料別)ご注文・お問い合わせ先、里山研究庵Nomad

  
 人々の出会いが、語らいが、21世紀の明日を拓く。
 鈴鹿山中・大君ヶ畑集落の休園となった保育園を再活用した「菜園家族 山の学校」を拠点に、森と琵琶湖を結ぶ犬上川・芹川流域地域圏(彦根市・多賀町・甲良町・豊郷町の一市三町)を視野に、自由で自主的な学びあいと地域再生の活動の夢を描く。

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本書発行の経緯

 年々深刻の度を増している「限界集落」の現状を何とか打開し、次の世代に希望をつなげる新たな活動をスタートさせようと、ここ大君ヶ畑では、2007年の夏以来、「菜園家族 山の学校」の開校にむけて準備を続けてきた。

 これは、1999年3月をもって休園となった集落内の旧保育園を再活用し、この地域の自然や歴史を礎に、これまで地元で続けられてきた地道な地域づくりの伝統と経験を活かしながら、21世紀にふさわしい、自然循環型共生の健康で清新な生活と文化の創造をめざすものである。

 2009年8月8日に大君ヶ畑で開催された「限界集落サミット」では、「菜園家族 山の学校」がめざす活動や、地域未来の新たな展望を示す「菜園家族」構想の大まかな内容をまとめたこのブックレット『森と湖(うみ)を結ぶ 菜園家族 山の学校』が参加者のみなさんに配布された。

「限界集落サミット」の詳しいご報告は、こちらをご覧ください。

目次

  はじめに
  プロローグ 私たちはどこから来て、どこへ行こうとしているのか

  1. 週休五日制の三世代「菜園家族」構想
  2. いのち輝く「菜園家族」
  3. 「菜園家族」が育つ場、「菜園家族」を育てる力
  4. 近江国に21世紀の未来を探る
  5. おおらかな学びあいの場、温もりある人間の絆

  エピローグ はるけき空の彼方に
  あとがき

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『菜園家族21 ―分かちあいの世界へ―』

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題名 菜園家族21 ―分かちあいの世界へ―
著者 小貫雅男・伊藤恵子
出版社 コモンズ
発行年月 2008年6月
判型・ページ B6判、255ページ
定価 本体2,200円+税
ISBN 9784861870491

     
 国破れて山河あり。どっこい菜園家族は生きていく。
 容赦なく貶められる人間の尊厳、差し迫る地球環境の破局的危機・・・。市場万能主義に安住していては、地球温暖化は防げない。「菜園家族」構想は、地球の破局を回避し起死回生をはかる、今や私たちに残された唯一の道である。

この本の詳しい内容を見る
要旨紹介

国破れて山河あり
どっこい菜園家族は生きていく

投機マネーに翻弄される世界経済。原油・穀物価格の高騰と世界的規模での食料危機。
国内農業を切り捨て、農業・農村を荒廃させ、食料自給率39%に陥った日本。
輸入してまで食べ残すこの不思議な国に、はたして未来はあるのでしょうか。

いのち削り、心病む、終わりなき市場競争

失業者、日雇いや派遣など不安定労働、「ワーキングプア」の増大。
競争と成果主義にかき立てられた過重労働、蔓延する心身の病。
医療・介護・年金など、社会保障制度の破綻。
家族、地域の崩壊、子どもの育つ場の深刻化。
明日をも見出すことができずに、使い捨てにされる若者たち・・・。

貶められても、貶められても、それでも・・・

 これほどまでに人間の尊厳が貶められながら、これほどまでに欲しいまま振る舞う「政治」を、これほどまでに長きにわたって許してきた時代も、珍しいのではないでしょうか。
 それは、氾濫する雑多な情報に振り回され、ますます肥大化する欲望に翻弄された現代社会の病弊の為せる業なのかも知れません。

今こそパラダイムの転換を

 市場競争至上主義のアメリカ型「拡大経済」の弊害と行き詰まりが浮き彫りになった今、18世紀イギリス産業革命以来、二百数十年間、人びとが拘泥してきたものの見方、考え方を支配する認識の枠組み、つまり、既成のパラダイムを根底から変えなければ、どうにもならないところにまで来ています。

 大地から引き離され、根なし草となった「現代賃金労働者(サラリーマン)」という人間の存在形態は、果たして永遠不変のものなのでしょうか?
 今、あらためて、人類史を自然界の生成・進化の中に位置づけて捉え直し、新たなパラダイムのもとに、未来社会を展望することが求められています。

人間のライフスタイルは変わる

 産業革命の到来とともに、人間の暮らしは、中世の循環型社会から大きな変貌を遂げます。新たに登場した資本主義は、不況と恐慌を繰り返し、人びとを失業と貧困の淵に追いやるとともに、他方では、人間の欲望をますます肥大化させ、その渦の中に巻き込んでいきます。

 こうした中、人びとは、資本主義の弊害と矛盾を乗り越えようと、新たな社会の枠組みを模索しました。19世紀、人類が到達したこの資本主義超克の未来社会論の核心は、社会的規模での生産手段の共同所有と、これに基づく共同管理・共同運営でした。

 20世紀末、ソ連・東欧の「社会主義」体制の崩壊によって、人類の理想への実験は挫折しました。
 その欠陥と崩壊の原因がようやく明らかになってきた今、それにかわる道として、生産手段の共同所有ではなく、あえて、生産手段(農地と生産用具・家屋など)と現代賃金労働者との「再結合」が新たに浮上してきます。

 この「再結合」を果たすことによって、衰退した「家族」は甦り、この「家族」を基礎に、「自立と共生」の多重・重層的な生き生きとした社会的基盤が築かれます。
 つまり、土壌学でいうところの、ミミズや微生物など多様な生き物が共存し、作物がよく育つ、肥沃でふかふかとした団粒構造の土づくりからやりなおし、自然循環型共生社会をめざすのです。

 この回帰と止揚の弁証法に基づく未来社会論が、21世紀の新たな道として、必然的に登場してくることになるでしょう。

 これが、週休五日制のワークシェアリングによる「菜園家族」(賃金労働者と農夫の二重化された人格)という、人類史上、未だかつて見られなかった、精神性豊かな人間の存在形態の創出であり、これを基調とするCFP複合社会※を経て、自由・平等・友愛の高度自然社会へ至る道なのです。

※CFP複合社会
Cは資本主義セクターC(Capitalism)
Fは家族小経営(「菜園家族」)セクターF(Family)
Pは公共セクターP(Public)である。

森と海(湖)を結ぶ流域地域圏

 もとより「菜園家族」は、単独では生きていけません。また、グローバル経済が席捲する今、ひとりでに創出されるものでもありません。
 「菜園家族」を育むゆりかごとして、かつて高度経済成長期以前までは、生き生きと息づいていた、循環型の“森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)”を思い起こし、今日の熾烈なグローバル経済の対抗軸として、その地域圏の再生を考えなければなりません。

 この本では、近江国(おうみのくに)の一角に、「犬上川・芹川∽鈴鹿山脈」流域地域圏という地域圏モデルを設定し、この個別具体的な一地域圏にこだわり、都市と農村をホリスティック(全一体的)に捉え、深く掘り下げることによって、自然循環型共生社会の構築の普遍につながる理論と、実践の指針を探ろうとしています。

低炭素社会への新たなメカニズムを

 今、世界の人びとは、地球温暖化の差し迫る破局的危機に直面し、この危機回避の重い課題を背負わされています。
 しかし、地球環境の問題は、「浪費が美徳」の市場万能主義に安住していては、決して解決することはできないでしょう。
 「菜園家族」構想は、市場競争に翻弄され、貶められた人間の尊厳を回復し、地球破局の淵から起死回生をはかる、唯一残された道なのです。

 本書では、経済成長と地球環境の保全とのジレンマに陥っている、省エネ技術開発やCO2排出量取引制度など、今日の「温暖化対策」の限界を克服すべく、それとは異なる新たな角度から、その解決に迫ろうとしています。
 つまり、CO2削減の営為が、ただ単にその削減だけにとどまることなく、同時に、次代のあるべき社会の新しい芽(「菜園家族」)の創出へと自動的に連動する、新たなメカニズムの創設です。

 この「CSSKメカニズム」の導入によって、地球温暖化の元凶である市場競争至上主義「拡大経済」は基底部からゆっくりと、しかも着実に変革され、「菜園家族」を基調とする新たな社会、すなわち、自然循環型共生社会への道は、確実に促されていきます。
 その結果として、今日、IPCCなどで提起されている、「2050年までにCO2排出量を半減する」という国際公約も、現実に果たされることになるでしょう。

 こうして、自然との融和を基調とする分かちあいの世界へと、道は開かれていくのです。

おおらかな学びあいの場と温もりある人間の絆を

 「教育」の現場が、「研究」の現場が、そして社会が閉塞状況に陥り、生気を失っている今、戦後の焦土の中から芽生えたあの“めだかの学校”の生き生きとした、自由で平等で友愛に満ちた精神は、目にまばゆいまでに新鮮です。

 私たちは、このいのち輝くみずみずしい精神を、子どももおとなも世代を超えて、もう一度、何とか取り戻したいと願うのです。
 自然循環型共生社会への道も、こうした願いを叶える小さな努力から、その第一歩がはじまるのだと思います。

 その具体的な取り組みとして、琵琶湖に注ぐ犬上川・芹川流域の最奥の過疎山村・大君ヶ畑(おじがはた)では、この森の集落に佇む今は休園となった小さな保育園を拠点に、「研究」・「教育」・「交流」を全一体的に捉えた新しい学びあいの場、「菜園家族 山の学校」のスタートに向けて、動きはじめようとしています。

  21世紀、人びとは、素朴な精神世界への回帰と

   人間復活の壮大な道を歩めはじめるのです。

目次

プロローグ 国破れて山河あり

第1章「辺境」からの視点

  1. モンゴル『四季・遊牧』から「菜園家族」構想へ
  2. 森と琵琶湖を結ぶ十一の流域地域圏
  3. 里山研究庵と調査活動の進展
  4. “菜園家族 山の学校”から広がる展望

第2章 人間復活の「菜園家族」構想

  1. 「菜園家族」構想の理念と原理
    • 民話『幸助とお花』の世界
    • 蔑ろにされた先人の思い、分断された流域循環
    • 大地を失い、衰退する家族 ―「競争」の果てに
    • 家族と地域再生の基本原理 ―生産手段との再結合
  2. 「菜園家族」構想とCFP複合社会
    • 週休五日制の三世代「菜園家族」構想
    • CFP複合社会の創出 ―人類史上、はじめての挑戦
    • CFP複合社会の特質
    • 二一世紀の新しい地域協同組織「なりわいとも」
  3. 自然の摂理と「菜園家族」
    • 自然界を貫く「適応・調整」原理
    • 自然法則の現れとしての生命
    • 自然界の原理に適った週休五日制のワークシェアリング
    • 二一世紀“高度自然社会”への道
  4. 地球温暖化と「菜園家族」
    • 早急に求められる地球温暖化への対応
    • 日本の取り組みの限界
    • もはや元凶の変革は避けては通れない
    • 「菜園家族」の創出は地球温暖化を食い止める究極の鍵
    • 子どもや孫たちの未来を見据えて
    • 日本の、そして世界のすべての人びとが心に秘める終生の悲願
    • 「環境先進社会」に学ぶ
    • 排出量取引制度を超える方法を探る
    • 低炭素社会へ導く究極のメカニズムCSSK方式

第3章 グローバル経済の対抗軸としての地域
      ―森と海(湖)を結ぶ流域地域圏再生への道

  1. 中規模専業農家と「菜園家族」による田園地帯の再生
    • 農業規模拡大化路線の限界
    • “菜園家族群落”は今日の農政の行き詰まりを打開する
  2. 「森の菜園家族」による森林地帯の再生
    • 荒廃する山の集落と衰退の原因
    • かつては賑わった最奥の集落・大君ヶ畑
    • 大君ヶ畑の暮らし ―ある老夫婦の半生から
    • 「御上」に振り回されて・・・
    • 森の再生は「森の民」だけが担う課題ではない
    • 森の再生は「森の菜園家族」の創出から
    • 「森の菜園家族」の具体的イメージ ―森の多様性を取り込み、木を活かす
    • 「森の菜園家族」の「なりわいとも」
    • 山の活用に斬新な発想を ―尾根づたい高原牧場ベルトライン
    • 伊那谷の家族経営牧場に学ぶ
    • 集落衰退に拍車をかけた分校の統廃合
    • 地域における学校の役割
    • 二一世紀、都市から森への逆流が始まる
  3. 「匠商(しょうしょう)家族」が担う中心街と中核都市
    • 非農業基盤の零細家族経営と中小企業
    • 「匠商家族」とその「なりわいとも」
    • 「匠商家族のなりわいとも」の歴史的使命
    • 犬上川・芹川流域地域圏における「匠商家族」と、その「なりわいとも」

第4章 地域再生に果たす国と地方自治体の役割

  1. 公的「土地バンク」の設立 ―農地と勤め口(ワーク)のシェアリング
  2. 「菜園家族」のための住宅政策 ―戦後ドイツの政策思想に学ぶ
  3. 新しい地域金融システムと交通システムの確立
  4. 流域地域圏における地方自治のあり方

第5章 “菜園家族 山の学校” その未来への夢

  1. “めだかの学校”を取り戻す
  2. 新しい「地域研究」の創造をめざして ―「在野の学」の先進性
  3. おおらかな学びあいの場と温もりある人間の絆を
  4. 諦念に沈む限界集落
  5. 再起への思い

エピローグ 分かちあいの世界へ
   苦難の道を越えて
   いのちの思想を現実の世界へ
   まことの「自立と共生」をめざして

あとがき

参考文献

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『菜園家族物語 ―子どもに伝える未来への夢へ―』

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題名 菜園家族物語 ―子どもに伝える未来への夢―
著者 小貫雅男・伊藤恵子
出版社 日本経済評論社
発行年月 2006年11月
判型・ページ A5判、373ページ
定価 本体2,800円+税
ISBN 9784818818873

 子どもたちの小さないのちは、その一つ一つまでもが、実に生き生きと、個性的に輝いている。 むごいことに時代は、不条理の苦しみの世界に小さないのちを追い込んでいく。いのち削り、心病む、終わりなき市場競争。この市場原理至上主義アメリカ型「拡大経済」日本から、いのち輝く「週休5日制」の農的生活への転換を説く。

この本の詳しい内容を見る
本書の特長

 本書『菜園家族物語 ―子どもに伝える未来への夢―』をまとめるにあたっては、挿絵や版画、歴史的な写真、資料など、図版190点余を織り込み、読みやすく、より理解が深まるよう工夫しました。これら多数の貴重な図版は、画家・研究者・市民活動家・農山村集落のみなさん・ゼミ卒業生・出版社・新聞社等、様々な分野の方々のご協力とご厚意により、掲載させていただくことができました。ややもすると無味乾燥なものに流れがちなこの本に、みずみずしい豊かな視覚的イメージを添えていただきました。

 挿絵をご提供くださった水野泰子さん(北海道)、前田秀信さん(長崎県)、志村里士さん(滋賀県)・・・、これら3人の方々の作品に共通していることは、今は過去となった情景に徹しながらも、未来への確かなメッセージが伝わってくることです。それは、すっかり失われてしまった人間のあたたかさを、次代へ甦らせたいという、共通の願いがあるからなのかもしれません。

 本書に込められた「子どもに伝える未来への夢」が、読者の方々の胸に多少なりとも息づきはじめることがあるとするならば、これら作品のお陰であると、心より感謝しています。

水野泰子さん、前田秀信さん、志村里士さんの詳しいご紹介は、こちらをご覧ください。

目次

はじめに

第一章 「菜園家族」構想の基礎

  1. 閉塞の時代―「競争」の果てに
      「拡大経済」と閉塞状況  市場原理と家族  「虚構の世界」  生きる原型
  2. 「菜園家族」構想の基礎―週休五日制による
      三世代「菜園家族」  新しいタイプの「CFP複合社会」 主体性の回復と倫理  「菜園家族」の可能性と展望  予想される困難  家族小経営の生命力
  3. 甦る菜園家族
      ふるさと―土の匂い、人の温もり  心が育つ  家族小経営の歴史性
  4. 「菜園家族」構想と今日的状況
      危機の中のジレンマ  誤りなき時代認識を  「構想」の可能性と実効性  誰のための、誰による改革なのか  グローバリゼーション下の選択  二一世紀の “暮らしのかたち” を求めて

第二章 人間はどこからきて、どこへゆこうとしているのか

  1. 新しい生産様式の登場
      道具の発達と人間疎外  市場競争から恐慌へ  そして衰退過程へ  一九世紀イギリスにおける恐慌と二一世紀の現代
  2. 人間復活への新たな思索と実践
      新しい思想家・実践家の登場  ニューハーモニー実験の光と影  資本主義の進展と新たな理論の登場  人間の歴史を貫く根源的思想
  3. 一九世紀、思想と理論の到達点
      マルクスの経済学研究と『資本論』  人類始原の自然状態  自然状態の解体とその論理  資本の論理と世界恐慌
  4. 一九世紀に到達した未来社会論
      マルクスの未来社会論  導き出された「共有化論」、その成立条件  今こそ一九世紀理論の総括の上に  マルクス「共有化論」、その限界と欠陥

第三章 菜園家族レボリューション ~高度自然社会への道~

  1. 資本主義を超克する「B型発展の道」
      生産手段の再結合 「家族」と「地域」の場の統一理論  「B型発展の揺籃期」 「B型発展の本格形成期」 「CFP複合社会」の展開過程
  2. 人間と家族の視点から
      個体発生と「家族」  「家族」がもつ根源的な意義  人間が人間であるために
  3. 自然状態への回帰と止揚
      生産手段「再結合」の意義  「自然社会」への究極の論理 “流域地域圏社会”の特質―団粒構造  自然界を貫く普遍的原理  「高度に発達した自然社会」へ  今こそ、生産力信仰からの訣別を

第四章 森と海を結ぶ菜園家族

  1. 日本列島が辿った運命
      森と海を結ぶ流域循環  森から平野へ移行する暮らしの場  高度経済成長と流域循環  「日本列島改造論」  断ち切られた流域循環  終末期をむかえた「拡大経済」  幻想と未練の果てに  重なる二つの終末期
  2. 森と海を結ぶ「菜園家族」エリアの形成
      森はなぜ衰退したのか  流域地域圏構想と市町村合併問題  二一世紀、山が動く  森が甦る契機  地域政策の重要性  国・地方自治体の具体的役割  エリア再生の拠点としての「学校」
  3. 「家族」と「地域」―共同の世界
      変化の中の「地域」概念  現存「集落」の歴史的性格 “共同の世界” を支えたもの  身近なことから  「集落」再生の意義
  4. 菜園家族エリアの構造、その意義
      「集落」の再生と「なりわいとも」  「菜園家族」と「くみなりわいとも」  基本共同体「村なりわいとも」  森と海を結ぶ「郡なりわいとも」  非農業基盤の「匠商家族」  「匠商家族」と「なりわいとも」  「なりわいとも」とエリア中核都市の展開  「なりわいとも」の歴史的意義

終章 人が大地に生きる限り

    • 歴史における人間の主体的実践の役割  自己鍛錬と「地域」変革主体の形成  未踏の思考領域に活路をさぐる  理想を地でゆく
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    『森と海を結ぶ菜園家族 ―21世紀の未来社会論―』

    ジャケット装画:柾木 高

    ジャケット装画:柾木 高

    題名 森と海を結ぶ菜園家族 ―21世紀の未来社会論―
    著者 小貫雅男・伊藤恵子
    出版社 人文書院
    発行年月 2004年10月
    判型・ページ A5判、447ページ
    定価 本体2,200円+税
    ISBN 9784409240700

     
     人は、明日があるから、今日を生きるのです。
     21世紀、人々は、人類始原の、自由・平等・友愛の自然状態を夢見て、壮大な回帰と止揚の道を歩みはじめるのです。
     琵琶湖の東、鈴鹿山中の里山研究庵から展望する犬上川・芹川流域地域(彦根市・多賀町・甲良町・豊郷町の一市三町)。この「森と海(湖)」を結ぶ流域循環型の地域圏モデルを舞台に、未来社会への積極的な方向性を提示する。週の2日は従来型の「お勤め」で賃金収入を確保し、あとは自給自足の家庭菜園に従事するという、21世紀世界の新しいタイプの生き方としてのこの一見大胆奇抜に思える「週休5日制」の「菜園家族」構想に内在する思想は、疲弊しきった現代人に思いもかけない逆転の発想をもたらすことであろう。

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    目次

    はじめに

    第一章 「菜園家族」構想の基礎

    1. 閉塞の時代-「競争」の果てに
        「拡大経済」と閉塞状況  市場原理と家族  「虚構の世界」   生きる原型
    2. 「菜園家族」の構想-週休五日制による
        三世代「菜園家族」  新しいタイプの“CFP複合社会”  「菜園家族」の可能性  主体性の回復と倫理  予想される困難  家族小経営の生命力
    3. 大地に明日を描く
        ふるさと-土の匂い、人の温もり  心が育つ  家族小経営の歴史性

    第二章 「菜園家族」構想と今日的状況

    • 危機の中のジレンマ  誤りなき時代認識を  「構想」の可能性と実効性  誰のための、誰による改革なのか  グローバリゼーション下の選択 二一世紀の“暮らしのかたち”を求めて
  • 第三章 「菜園家族」の世界史的位置

    1. 一九世紀、苦闘と思索の足跡
        資本の論理と人間疎外  「恐慌」という名の致命傷に向き合う   新しい思想家・社会改革者の登場   オウエン構想の意義と限界   ニューハーモニー実験の光と影   資本主義の進展と新たな理論の登場  一九世紀、思想と理論の到達点  マルクスの経済学研究と『資本論』
    2. 一九世紀における未来社会論
        人類始原の自然状態  自然状態解体の論理  資本の論理と恐慌 世界恐慌の不可避性と展望  マルクスの未来社会論  導き出された共有化論 共有化の成立条件  共有化論の欠陥と誤り

    第四章 自然社会への道

    1. 生産手段の「再結合」
        B型発展の道  「菜園家族」と「地域」  特性としての揺籃期  B型発展の本格形成期  “CFP複合社会”の展開過程
    2. 人間と家族の視点から
        個体発生と「家族」  「家族」がもつ根源的な意義  人間が人間であるために  生産手段「再結合」の意義  自然社会への究極の原理  高度に発達した自然社会へ

    第五章 日本列島が辿った運命

    • 森と海を結ぶ流域循環  森から平野への移行  高度経済成長と流域循環  「日本列島改造論」  断ち切られた流域循環  終末期をむかえた「拡大経済」 幻想と未練の果てに  重なる二つの終末期
  • 第六章 森と海を結ぶ「菜園家族」

    1. 「菜園家族」と流域循環型地域圏
        森はなぜ衰退したのか  流域地域圏構想と市町村合併問題  二一世紀、山が動く 森が甦る契機  地域政策の重要性
    2. 「家族」と「地域」-共同の世界
        変化の中の「地域」概念  現存「集落」の歴史的性格 “共同の世界”を支えたもの  身近なことから  「集落」再生の意義
    3. 菜園家族エリアの構造、その意義
        「集落」の再生と「なりわいとも」  基本共同体「村なりわいとも」 森と海を結ぶ「郡なりわいとも」  非農業基盤の「匠商家族」  「匠商家族」と「なりわいとも」  「なりわいとも」の歴史的意義

    第七章 二一世紀、近江国循環型社会の形成

    1. 森と海を結ぶ流域循環型地域圏モデルの設定
        湖国近江、滋賀  近江国、十一の流域循環型地域圏モデル  aモデル選定の経緯
    2. aモデル「犬上川・芹川流域循環型地域圏」の昔と今
        aモデルの地理的範囲  平野部~多賀町の一部と甲良町・豊郷町  平野部~彦根市 山間部~多賀町  雨乞い信仰と流域地域圏  ある老夫婦の半生 民話『幸助とお花』の世界より~循環の思想~
    3. 地域認識の深化と変革主体
        作業仮説の設定とその意義  螺旋円環運動と変革主体の形成
    4. 犬上川・芹川流域循環型地域圏形成の目標と課題
        流域循環型地域圏構築の基本姿勢  土地利用の視点から-田園地帯-  土地利用の視点から-森林地帯-  森再生の決め手  彦根市街地および三町の中核街  自立的な経済圏成立の前提  国・地方自治体の役割と政策投資
    5. 近江国循環型社会から世界へ
        近江国広域圏の一体性  歴史における主体的実践の役割  理想を地でゆく
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    『菜園家族レボリューション』

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    題名 菜園家族レボリューション
    著者 小貫雅男
    出版社 社会思想社・現代教養文庫
    発行年月 2001年11月
    判型・ページ 文庫版、208ページ
    定価 本体560円+税
    ISBN 9784390116459 ※絶版につき、ご注文・お問い合わせは、里山研究庵Nomadまで。

     市場原理至上主義アメリカ型「拡大経済社会」から、「菜園家族」基調のCFP複合社会へ。巨大化の道の弊害と行き詰まりが浮き彫りになった今、その評価を問いなおし、家族小経営の持つ優れた側面を再考する。
     人間を大地から引き離し、虚構の世界へとますます追いやる市場競争至上主義「拡大経済」に、果して未来はあるのだろうか。ここに提起する“大地に生きる”人間復活の唯一残されたこの道に、“菜園家族レボリューション”の思いを込める。

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    本書の「プロローグ」より

     モンゴル遊牧社会の研究をはじめてから、いつのまにか長い歳月が過ぎてしまいました。そ の間、草原や山岳・砂漠の遊牧民家族と共に生活し、一年あるいは二年という長期の住込み 調査や、短期のフィールド調査をまじえながら、日本とモンゴルの間を何回も行き来すること になりました。

     ここに提起される日本社会についての未来構想は、この両極を行き来しながら、風土も暮ら しも価値観も、日本とは対極にあるモンゴルから日本を見る視点、そして、そこから生ずる何 とも言いようのない不協和音を絶えず気にしつつ、長年考えてきたことが下敷きになっている のかもしれません。

     モンゴルの遊牧民からすれば、日本は「輸入してまで食べ残す不思議な国ニッポン」に映る ことでしょう。本当は憤りさえ覚えているのかもしれません。高飛車に「あんたたちは、経済と いうものを分かっちゃいないんだよね」などと言って、世事に擦れた感覚に、薄汚れた常識を 振り回し、せせら笑ってすませる場合ではないのです。

     話は前後しますが、こうした日本とモンゴルの間の長年の行き来の中でも、とくに1992年秋からの一年間、山岳・砂漠の村ツェルゲルでの生活は、日本社会のこの未来構想を考 える上で、貴重な体験になっています。

    本書の「あとがき」より

    ……“菜園家族レボリューション”。これを文字どおりに解釈すれば、菜園家族が主体となる 革命のことを意味しているのかもしれません。しかし、“レボリューション”には、自然と人間界 を貫く、もっと深遠な哲理が秘められているように思えるのです。それは、もともと、旋回であ り、回転でありますが、天体の公転でもあり、季節の循環でもあるのです。そして何よりも、原 点への回帰を想起させるに足る、壮大な動きが感じとれるのです。イエス・キリストにせよ、 ブッダにせよ、わが国近世の希有な思想家安藤昌益にせよ、あるいはルネサンスやフランス 革命にしても、レボリューションの名に値するものは、現状の否定による、原初への回帰の情 熱によって突き動かされたものなのです。現状の否定による、より高次な段階への止揚(アウ フヘーベン)と回帰。それはまさに、「否定の否定」の弁証法なのです。現代工業社会の廃墟 の中から、それ自身の否定によって、田園の牧歌的情景への回帰と人間復活の夢を、こ の“菜園家族レボリューション”に託して、結びにかえたいと思います。

    目次

    プロローグ

    第一章 閉塞の時代―「競争」の果てに

    1. 「拡大系の社会」と閉塞状況
    2. 市場原理と家族
    3. 「虚構の世界」
    4. 生きる原型

    第二章 「菜園家族」の構想―週休五日制による

    1. 三世代「菜園家族」
    2. 新しいタイプの“複合社会”
    3. 「菜園家族」可能性
    4. 主体性の回復と倫理
    5. 予想される困難
    6. 家族小経営の生命力

    第三章 大地に明日を描く

    1. ふるさとー土の匂い、人の温もり
    2. “心が育つ”
    3. 理想を地でゆく
    4. 家族小経営の歴史性

    第四章 ふたたび「菜園家族」構想について

    1. 二十一世紀、人間復活の時代
      • 『四季・遊牧』の現代性
      • 問題は根深い
      • 大地に明日を描く
    2. 閉鎖からの脱出
      • 危機の中のジレンマ
      • 誤りなき時代認識を
      • 「構想」の可能性と実効性
      • 誰のための、誰による改革なのか
      • グローバリゼーション下の選択
      • 二十一世紀の“暮らしのかたち”を求めて
    3. 里山研究庵

    補章 『四季・遊牧ーツェルゲルの人々』をめぐって

    1. 『四季・遊牧ーツェルゲルの人々』について
      • 作品のあらすじと構成(伊藤恵子)
      • 解説ー独自の世界にひたる
    2. 新しい鑑賞のスタイルの創造をめざして
      • “お弁当二つの上映会”
      • 『四季・山村ー朽木谷の人々』の制作
    3. 辺境からの視点
      • 異郷の涙
      • 究極のアウトドア
      • いのちの初夜
      • どぜう
      • 北国の春
      • 早春の賦

    エピローグ

    文庫版へのあとがき
    解説(伊藤恵子)

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    『週休五日制による三世代「菜園家族」酔夢譚』

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    題名 週休5日制による 三世代 菜園家族酔夢譚
    著者 小貫雅男
    発行 Nomad
    発行年月 2000年
    判型・ページ B5版、89ページ
    定価 頒価:350円(送料別)ご注文・お問い合わせ先:里山研究庵Nomad

    「大地」から切り離され、「いのち」からますます遠ざかる現代都市型社会に生きる私たち。しかしどうあがいても、この母なる大地から離れては生きていけない。長年のモンゴル遊牧社会のフィールド調査から見えてきた一つの「生きる原型」。そこから提起する21世紀・日本のグランドデザイン。

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