Facebookページの掲載記事(2021.10.16)

 2021年10月16日に、菜園家族じねんネットワーク日本列島Facebookページhttps://www.facebook.com/saienkazoku.jinen.network/に掲載した記事を、以下に転載します。

 なお、新プロジェクト“菜園家族じねんネットワーク日本列島”の趣意書(全文)― 投稿要領などを含む ― は、こちらをご覧ください。

晩秋、田園の夕暮れ

【“農ある暮らし”の復権】
 今週は、米価の急下落、稲作農家を直撃の報道。こうした状況では、農山村の地域衰退、特に農家の後継者不足にさらなる拍車をかけることになるのは間違いない。
 他方、コロナ災禍のもと、小中学生の「不登校」は、過去最多の19万人。小中高の児童・生徒の自殺者数も、415人で最多を記録。生活環境の変化で、多くの子供たちが心身に不調をきたしたことが一因であるという。

 こうした暗いニュースが相次ぐ中、かつての滋賀県立大学時代のゼミの女子学生の父親である池本清和さん(滋賀県甲賀市水口町)から、秋一番の新米が届いた。少年時代、茨城県北・常陸太田の在で味わった、炊きたての新米の香りとうまみが懐かしく思い出される。

 池本さんは、地元で50年以上にわたって米作りを続ける篤農家。丹精込めて育てた新米には、「お便り」と写真が添えられていた。
 そこには、田植えの季節の様子や、稲刈りコンバインとお孫さんたちの明るい、実にほほえましい家族の風景がみなぎっていた。今ではすっかり失われた“農ある暮らし”の復権を、無言のうちに訴えかけてくるようだ。

 10月12日に当Facebookページの「コミュニティ」欄に投稿された、喜寿を迎えた出口尚弘さん(神戸市)のご決意と実践も、現に今でも同じ日本社会の中で、淡々と続けられてきた池本さんの“農ある暮らし”の営為を思い浮かべる時、決して出口さんご自身が言われるように、現実からかけ離れた「荒唐無稽で無謀なこと」とは思えなくなる。
 出口さんが一時的にせよ、自らの選択を「無謀ではないか」と悩み、躊躇されたとすれば、それはまさに、戦後高度経済成長の過程で、「便利で快適な」生活にすっかり慣らされてきた、私たち大半の国民の価値観がそうさせていると思わざるを得ない。

 「新しい資本主義」を掲げ、装い新たに「成長と分配の好循環」を喧伝する為政者たち。気候変動とパンデミックの時代、地球そのものの破滅の危機にあっても、なおもまた旧態依然として、「その場凌ぎ」の人気取りを競い合っている現状に、遣る瀬なさが募る。

 私たちは今、何からはじめ、何を成すべきか、もうはっきりしているのではないだろうか。それは結局、“大地への回帰と止揚”という民衆の根源的な思想によって、新たな世界を切り開き、確かな道筋を探究していくことなのではないのか。
 こうした時代にあって、出口さんの勇気ある決断は、格別に大きな意味をもっている。

 全国津々浦々で、池本さんのような経験豊かな地場の篤農家と、新たな挑戦に踏み出す出口さんのような市民と若者たちが、交流の中で相互理解を深め、知恵と力を出し合い、地域の明日を開いていく、そんな時代の一日も早い到来を願っている。

(2021.10.16 里山研究庵Nomad 小貫)