連載「希望の明日へ―個別具体の中のリアルな真実―」第2章4節(その2)

新企画連載
希望の明日へ
―個別具体の中のリアルな真実―

第2章  人間復活の「菜園家族」構想

4 地球温暖化と「菜園家族」(その2)

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連載「希望の明日へ―個別具体の中のリアルな真実―」
第2章  人間復活の「菜園家族」構想
4 地球温暖化と「菜園家族」(その2)
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東ボグド高山、ヤギを追う遊牧民

4 地球温暖化と「菜園家族」(その2)

「環境先進社会」に学ぶ
 今日、「省エネ技術」の開発が進んだ国を「環境先進国」と位置づけ、それが常識になっています。しかし、この考え方は根本から改めなければならない時に来ているのではないでしょうか。
 私たちがめざしているのは、究極において、ほかでもない、高次に発達した自然社会です。不当にも「遅れた国々」とも呼ばれている、伝統的な自然循環型の社会こそ、まさに「環境先進社会」と呼ぶべきかもしれません。
 こうした社会こそ、意外にも、私たちがこれからめざすべき高次自然社会へのもっとも近い、健全な道を歩む可能性を秘めているとも言えるからです。

 私たちは、ある条件のもとで、後進性が先進性に転化するという、この弁証法を歴史のさまざまな局面で見てきました。
 乾燥した大地にわずかに生える草をヤギや羊たちに食べさせ、丹念に乳を搾り、チーズやヨーグルトをつくり、自ら育てた馬やラクダで移動し、家族とともにつつましく生きているモンゴルの遊牧民たち。

 こうした人びとから見れば、豊かな自然と四季に恵まれているはずの日本など、さしずめ「輸入してまで食べ残す、不思議な国ニッポン」に映ることでしょう。
 そして、四六時中テレビから垂れ流すイメージ優先のコマーシャルで人びとの購買欲をかき立て、まだまだ十分に使えるのに、買い捨てを繰り返させる、誠にぜいたくな社会だと、本当は、憤りさえ覚えているのかも知れません。

 投機マネーが瞬時に世界を駆け巡り、ごくわずかの金満家が、濡れ手に粟とばかりに巨万の富を掻き集める状況に至っては、もはや、想像も及ばない世界であるに違いありません。
 高飛車に「あんたたちは、経済というものを分かっちゃいないんだよね」などと言って、世事に擦れた感覚に、薄汚れた常識を振り回し、せせら笑ってすませる場合ではないのです。

 私たち先進工業国、それに加えて、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)までもが「拡大経済」を追求する限り、モンゴルをはじめとする世界の大地は、「開発」の名のもとに、石油、鉄、レアメタルなどの地下鉱物や、水、森林などの天然資源、食料、繊維などの格好の収奪先として狩り尽くされます。遊牧民や農民など、大地に生きる人びとは、かけがえのない自らの「地域」から放逐されてしまうのです。
 これこそ、すさまじい環境の破壊であり、伝統に根ざした暮らしのあり方の破壊なのではないでしょうか。

 しかも、いつしかこうした国々もまた、際限のない「拡大経済」の市場に呑み込まれ、独自の進むべき道を閉ざされていきます。結局、根なし草同然の不安定な「賃金労働者」となって、私たちと同じ道を歩むことになるのです。
 私たちの市場に出回る安価な製品は、このような人びとの過酷な労働という大きな犠牲の上に成立しているという事実からも、目をそらしてはなりません。

 そこには、多様性を失い、画一化された、マネーがすべての乾ききった世界が残されるだけです。こうして全地球は、争いの絶えない、ますます不安定で混沌とした悲惨な世界に陥っていくでしょう。
 今こそ私たちは、いわゆる「先進国」仲間同士の身内の発想から訣別しなければなりません。浮ついた口調で「環境先進国」とか「環境技術大国日本」と僭称してきた言葉の背後にある思想そのものを、一刻も早く克服しなければならないときに来ているのです。

キツネ

 2008年7月には、G8サミット(主要先進国首脳会議)が、前年に引き続き地球温暖化問題を主要なテーマの1つとして、日本が議長国となり、北海道洞爺湖(とうやこ)で開催されました。
 こうしたサミットは、地球温暖化問題について、科学的な知見に基づく理解を広く国民レベルで普及する上で、大きな役割を果たす絶好の機会であり、先進各国首脳の単なる晴れの儀式の舞台に終わらせてはならないはずです。
 温室効果ガス削減のための「省エネ技術」の開発や、排出量取引制度の手法などに矮小化することなく、今日、私たちがどっぷり浸っている市場競争至上主義のアメリカ型「拡大経済」の生産体系と、そのライフスタイルそのものに鋭い批判の目を注ぎ、これまでの限界をはるかに超えた、問題の核心を突くものにしなければなりません。

 そして、何よりも大切なのは、広範な人びととの連携のもとに、議論を深め、力強い運動に高めていくことなのではないでしょうか。それは、住民・市民をはじめ、地球環境問題やさまざまな社会問題に取り組んでいる科学者やNGOやNPO、さらには農山村や都市部でのさまざまな地域活動、そして労働基本権や生存権すら認められず、不安のなかで日夜苦しんでいる多くの人びと、あるいは、地方自治体や企業や経済界の先進的で開明的な部分をも包み込むものでなければなりません。

 大量に温室効果ガスを排出している大国の利害がぶつかり合い、矛盾・対立が激化している時だけに、この限界を何とか乗り越えなければなりません。それには、地球環境問題の初心に返り、21世紀が要請する、新たな社会変革の本道に立ち返らなければならないのです。

 そして、その社会変革の核心とも言うべき“てこ”は、ほかでもありません。根なし草同然の「現代賃金労働者(サラリーマン)」に代わる、新たな人間の社会的生存形態としての「菜園家族」の創出です。
 私たちは、この「菜園家族」を基盤に、資本主義セクターC、家族小経営セクターF、公共的セクターPの三大セクターから成るCFP複合社会を経て、人間本来の豊かさと無限の可能性を求め、人類究極の夢である大地への回帰(レボリューション)と自由・平等・友愛の高次自然社会への壮大な道を、遅かれ早かれ歩みはじめることになるでしょう。
 この変革の道を忘れ、ここからはずれたいかなる方法も、おそらく究極において、地球環境問題の根源的な解決を成し遂げることはできないのではないでしょうか。

排出量取引制度を超える方法を探る
 私たちがここまで確認してきた結論は、今日の深刻な人間性の破壊と地球環境問題、この両者を根本的に解決するためには、18世紀産業革命以来の「賃金労働者家族」を止揚して、賃金労働者と農民の2つの性格、ないしは人格を合わせもつ「菜園家族」に転化していくことが決定的に重要である、ということでした。

 急速に進行する地球温暖化との関連で、「菜園家族」への転化、そして社会の変革をどのように実現していくのか、その具体的な方法がこれからの子どもたちのためにも緊急に求められます。
 そこで、ここでは、素案中の素案とも言うべき、初動の段階の考えを提示しておきたいと思います。このたたき台が今後、さまざまな分野の人びとの議論のなかで、いっそう深められていくことが、私たちの願いです。

 その際、EUではすでに実施の段階に入り、市場ができあがっていると言われる、温室効果ガス削減のための排出量取引制度にまず着目したいと思います。そして、それに学びながらも、これまでに指摘されている弱点や欠陥を、先に述べた社会経済的側面、つまり、「菜園家族」を基調とする自然循環型共生社会への転換という、社会変革の視点を導入することによって根源から克服し、より包括的かつ有効な制度へと止揚していきたいと思います。

 排出量取引制度は、国全体としてのCOなど温室効果ガス排出削減目標を定めた上で、その達成のために、、個々の企業に排出の上限(排出枠)を課すことが前提です。その枠を超える場合には、他の企業から排出権を買わなければなりませんが、逆に余った場合には、その分を他の企業に売ることができます。
 つまり、排出権という特殊な「商品」を生み出し、市場にゆだね、競争原理によって「環境技術」の開発を促そうというものです。

 排出枠を個々の企業に課すのですから、排出量の削減はある程度まで可能でしょう。しかし、排出権が市場でいくら取引されても、それ自体は、ただちに排出量の削減を意味するものではないことは明らかです。
 また、排出権市場が、投機的資本のマネーゲームの新たな場と化す危険もあるし、お金を持つ国や巨大企業にとっての、削減義務逃れの抜け穴になりかねないという欠陥を、もともと孕(はら)んでいます。

 さらに、排出権の取得にあたっても、途上国に資金・技術面で協力して削減した分を、自国で減らしたと見なせるクリーン開発メカニズム(CDM)も大きな問題です。これを活用し、「国際貢献」の美名のもとに「環境技術移転」や「環境支援」をおこなうことは、相手国の生産や暮らしのあり方の独自性を無視し、国づくりの主体性を結果的に阻害する、先進国自身に都合のよい、自己本位の欺瞞に終わる可能性が、きわめて高いと言わなければなりません。

 このように排出量取引制度は、国家的規制ルールと、市場競争原理との組み合わせによって、排出量削減を経済的に誘導しようとする点で、たいへん興味深い方策の1つではありますが、同時にさまざまな問題点を抱えていると言えるでしょう。
 なかでも、地球温暖化の最大の元凶である市場競争至上主義の社会経済のあり方と、大量生産・大量浪費・大量廃棄のシステム自体を放置したまま、果たして今日の地球の破局的危機を回避できるだけの排出量削減を本当に実現できるのかが、最大の問題です。
 現状の排出量取引制度のままでは、危機回避はおぼつかないと言わざるをえないでしょう。

 もちろん、社会の変革は一気に実現できるものではありません。それでも、さまざまな問題点を抱えているとはいえ、今日EUがリードし、国際的にも主流となってきた排出量取引制度をはじめとするCO削減の手法のなかに、自然循環型共生社会への移行を誘導する新たなメカニズムを同時並行的に組み込むことによって、総体としてCO排出量を確実に削減する方法を何とか編み出さなければなりません。

 こうした問題意識から、現在の排出量取引制度を超える新たな方法を探りたいと思います。
 その際、これまで述べてきた週休(2+α)日制のワークシェアリング(但し1≦α≦4)による「菜園家族」基調の自然循環型共生社会それ自体が、「超低炭素社会」であること、したがってこの社会への転換こそが、CO排出量削減の決定的な鍵であることを前提にして考えていきましょう。

脱炭素社会へ導く究極のメカニズムCSSK方式
 ここで提起する案は、主に企業など生産部門におけるCO排出量の削減と、商業施設や公共機関や一般家庭などにおける電気・ガス・自動車ガソリン等化石エネルギー使用量の削減を、「菜園家族」の創出と連動させながら、包括的に促進するための公的機関「CO削減(C)と菜園家族(S)創出の促進(S)機構(K)」(略称CSSK)の創設です。国および都道府県レベルに創設されるこの機構を、これから述べるメカニズムの中軸に据えていきます。

 EUにおける排出量取引制度は、設定された排出枠、すなわち許可排出量の過不足分の売買を、主に企業間でおこなうものです。
 ここで提起する案では、こうした排出量取引と並んで、一定規模以上の企業を対象にCO排出量自体に「炭素税」を課し、CSSKの財源に充てます。合わせて、企業間の排出量取引額の一定割合についても、この「炭素税」とともにCSSKの財源に移譲します。
 つまり、「排出量取引」と「環境税」ともいうべき「炭素税」の組み合わせによって、国内のCO排出の抑制を促すのです。

 他方、商業施設や公共機関や一般家庭などでの電気・ガス・自動車ガソリン等の化石エネルギー使用については、事業の規模や収益、家族の構成や所得、自然条件や地域格差など、さまざまな条件を考慮した上で、使用の上限を定め、基準以上の使用分に対しては、累進税を課します。この「環境税」も、CSSKの財源に移譲します。

朝の農村風景(2021.11.7三重県勢和村)
撮影・提供:林 千智さん(三重県勢和村)

 CSSKは、生産部門と消費部門から移譲される、いわば「特定財源」を有効に運用して、「菜園家族」の創出とCO排出量削減のためのさまざまな事業をおこなうわけです。
 まず、「菜園家族」の創出については、第4章で詳しく述べる、市町村に設置される農地とワーク(勤め口)のシェアリングの調整・促進のための公的「農地バンク」と連携しながら、国土の各地域において、「菜園家族」創出を目的とした支援(助成金、融資など)を強化していきます。
 具体的には、「菜園家族」志望者への経済支援や、農業技術の指導など人材育成、また、住居家屋・農作業場や工房、農業機械・設備、圃場・農道をはじめとする、いわば「菜園家族インフラ」の整備等々の総合的な推進です。

 その結果、限界集落や消滅集落が続出し、田畑や山林の荒廃が急速に進んでいる過疎・高齢化の山村でも、農業経営が行き詰まり、破綻に瀕している平野部の農村でも、週休(2+α)日制の「菜園家族」が着実に創出され、全国津々浦々へとその広がりを見せていくことでしょう。
 国および都道府県レベルに創設されるCSSKと、市町村に設立される公的「農地バンク」との連携による強力かつ有機的な支援体制のもとではじめて、都市や地方の若者も、パートや派遣労働など不安定労働に苦しんでいる多くの人びとも、脱サラを希望する人たちも、全国各地の農山村に移住し、「菜園家族」を築いていくことでしょう。根なし草同然の不安定なギスギスした生活から、大地に根ざした、いのち輝く農ある暮らしに移行するのです。やがて、日本の国土は、週休(2+α)日制の「菜園家族」によって埋め尽くされ、森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)が新たに甦っていくにちがいありません。

 これは、まさにこのCSSK方式のメカニズムによって「特定財源」を背景に、「菜園家族」構想で言うところの、資本主義セクターCの無秩序な市場競争を抑制しつつ、家族小経営セクター、すなわち「菜園家族」セクターFを拡大強化し、公共セクターPの新しい役割を明確に位置づけながら、CFP複合社会への移行を確実に促進することを意味しています。
 CSSKは、全国市町村の公的「農地バンク」のネットワークと連携しつつ、20年、あるいは50年という長期にわたる移行計画の全過程を支えていきます。
 やがて日本社会は、究極の脱炭素社会、つまり「菜園家族」を基調とするF、P二大セクターから成る脱資本主義の自然循環型共生社会(じねん社会)へと、ゆっくりと着実に生まれ変わっていくのです。

 次に、CO排出量削減については、「排出量取引」と「環境税」の組み合わせによる、新たなCSSKのメカニズムのもとで、生産部門におけるCO排出量と、消費部門における化石エネルギーの使用は、次第に抑制され、「環境技術」そのものの開発も促進されていくことでしょう。
 CSSKは、また、再生可能な自然エネルギー、なかでも、巨大で高度な科学技術に頼らない、人間の身の丈に合った「中間技術」による地域分散自給自足型の小さなエネルギー源を研究・開発・普及させる上でも支援をおこない、CO排出量削減に寄与していきます。

川遊び(2010.7.26大君ヶ畑)
琵琶湖に注ぐ犬上川(鈴鹿山中・大君ヶ畑)

 ここで再度、確認しておきたいことは、CSSKメカニズムによる「菜園家族」の創出と森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)の再生そのものが、そして「菜園家族」を基調とする自然循環型共生社会への転換自体が、使い捨ての浪費に慣らされてきた私たち自身のライフスタイルと企業の生産体系を、社会の深層から着実に大きく変えていくということです。
 それはとりもなおさず、「環境技術」による「省エネ」や新エネルギーの開発のみに頼る今日の施策とは、比較にならないほど大幅な消費エネルギー総量の削減を、企業のみならず、一般家庭においても可能にします。
 したがって、このCSSK方式においては、「菜園家族」創出の事業そのものが、CO排出量削減の決定的役割を担うといっても過言ではありません。

 CSSK方式では、生産部門と消費部門から還流する「特定財源」をもとに、CO排出量大幅削減の多重・重層的、かつ包括的なメカニズムが、全体として、有効かつ円滑に作動します。
 つまり、端的に言うならば、このメカニズムは、CO削減の営為が、単にその削減だけにとどまることなく、同時に次代のあるべき社会の新しい芽(「菜園家族」)の創出へと自動的に連動する、意外にも高次のポテンシャルを内包しているのです。これが、CSSK方式の最も大切な特質であると言ってもいいでしょう。

 国連気候変動枠組み条約締約国会議が掲げる国際的約束、すなわちCO削減の数値目標も、このCSSK方式のメカニズムによって、確実に達成されていくでしょう。
 今後、CO排出量削減のさまざまな国際的経験からも大いに学び、また国内の実情をさらに調査しつつ、広く英知を結集し、この素案をもとに包括的かつ綿密なシステムに練りあげることが、緊急の大きな課題です。

 繰り返し述べてきたように、「菜園家族」そのものが市場原理の作動に対する優れた免疫を備え、CO排出量削減の究極の鍵になっています。したがって、「菜園家族」を基盤に、20年、50年という長い時間をかけて、ゆっくりと築きあげられる新しい社会は、ますますグローバル化する世界金融の猛威や国際市場競争の脅威にもめげることなく、その優れた免疫力を発揮しつつ、自然に融和した健全な発展を遂げる違いありません。

 それは、とりもなおさず、外需に過度に依存する、無秩序で不健全な輸出貿易型経済から、きわめて理性的に抑制された資源調整型の貿易のもと、健全な内需主導型の経済へ、着実に移行していくことでもあるのです。
 私たちは、21世紀において、このような社会をめざしていくほかに、道は残されていないのではないでしょうか。

 ここで問題にしたいことは、今日ここに至ってもなお目先の損得に終始する、近視眼的志向に陥っているこの国の政治的状況です。それを作り出している原因は、もちろんいろいろ考えられます。その責任を為政者のみに負わせるのは簡単ですが、それでは、本当の意味での解決にはつながらないでしょう。
 むしろ、この国の未来のあるべき姿が見えないところで、絶えず議論を強いられ、あるいは、それを許してきた国民サイドの弱さにも、もっと目を向けなければならないときに来ているのではないでしょうか。
 世界の人びとにとって焦眉の課題であり、自己の存在すら根底から否定されかねない地球温暖化の問題は、私たちが生きているこの社会の未来の姿はどうあるべきかを自分自身の問題に引き寄せて真剣に考える千載一遇の機会として、積極的に受け止めたいものです。

 市場原理に対して、免疫力のない脆弱な体質をもった旧来型の社会が、世界を埋め尽くしている限り、同次元での食うか食われるかの力の対決は、どこまでも続いていくことでしょう。市場競争は、地球大の規模でますます熾烈さを極め、世界は終わりのない血みどろの修羅場と化していきます。
 こうした状況を不問に付す地球温暖化対策は、一時はうわべを糊塗できたとしても、本質的な解決につながるものではありません。21世紀は、こうした状況に終止符を打たなければなりません。

 そのためには、18世紀イギリス産業革命以来、私たちが拘泥してきたものの見方、考え方を支配する認識の枠組みを革新し、新たなパラダイムのもとに、これまでとはまったく次元の異なる独自の道を探り、歩みはじめる覚悟が必要ではないでしょうか。
 このことは、日本のみならず、世界のすべての国の人びとがめざすべき、21世紀人類の共通にして最大の目標となるに違いありません。
 そうでないというのであれば、現状を甘受するほかなく、やがて人類は、熾烈な市場競争の果てに、人間同士の凄惨なたたかいによって滅びるか、地球環境の破壊によって亡びるしかないのです。

 自然循環型共生社会の創出には、私たちそれぞれが暮らす身近な地域のあり方が問われます。それは、地域、すなわち森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)は、「菜園家族」を育むゆりかごであるからです。
 そして、足もとにある森林や農山村、そこに生きる人びとの暮らしを置き去りにしたままでは、地球環境問題の本当の解決はできないでしょう。

 次章では、日本の「地域」のおかれている現状とその再生について、私たちの身近にある近江国(おうみのくに)の森と琵琶湖を結ぶ「犬上川・芹川∽鈴鹿山脈」流域地域圏(エリア)を具体的な例にとり、詳しく見ていきたいと思います。

       ――― ◇ ◇ ―――

以上、第2章4節「地球温暖化と『菜園家族』」(その1)、(その2)は、『菜園家族21』(コモンズ)が出版された2008年時点での記述です。
 その後15年の間に、気候変動問題はますます深刻化し、それにともない、関連する国際的議論や研究状況も大きく変化してきました。
 こうした状況をふまえ、私たち自身もこの問題についてさらに考察を深め、特に上記(その2)の中で提起したCSSKメカニズムを基軸に、その時どきの社会経済的側面を包括的に取り上げながら、より精緻なものに練り上げてきました。
 その直近の成果は、当里山研究庵Nomadホームページで連載した「要諦再読」の「その21」(2023年7月15日付)、および「その22」(2023年7月22日付)において、「世界的複合危機の時代を生きる ―避けては通れない社会システムの根源的大転換― ①・②」と題して、詳しく展開しています。ぜひご参照ください。

要諦再読 ―その21―
世界的複合危機の時代を生きる ①
―避けては通れない社会システムの根源的大転換―

――CO排出量削減の営為が即、古い社会(資本主義)自体の胎内で
  次代の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動する
  CSSK社会メカニズムの提起――

1 気候変動とパンデミック、そしてウクライナ戦争は、
  果たして人間社会の進化にとってまことの試練となり得るのか
2 今日までに到達した気候変動に関する世界の科学的知見から
3 今日の地球温暖化対策の限界と
  いよいよ避けては通れない社会システムの根源的大転換
4 国際的目標2050年カーボンニュートラル実現完遂への具体的提案
  ―CO排出量削減と社会システムの根源的変革の統一のもと―
https://www.satoken-nomad.com/archives/2463

要諦再読 ―その22―
世界的複合危機の時代を生きる ②
―避けては通れない社会システムの根源的大転換―

――CO排出量削減の営為が即、古い社会(資本主義)自体の胎内で
  次代の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動する
  CSSK社会メカニズムの提起――

5 CSSK特定財源による彩り豊かな国土と民衆の生活世界の再生
6 CSSKメカニズムに秘められた近代超克の意外にも高次のポテンシャル
7 パンデミックによって露わになったこの国社会の構造的矛盾
8 CSSKメカニズムの円滑かつ着実な駆動が21世紀の新しい時代を創る
9 21世紀、広範な国民運動の新たな土台となる「菜園家族」じねんネットワーク
https://www.satoken-nomad.com/archives/2485

2023年12月15日
里山研究庵Nomad
小貫雅男・伊藤恵子

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