連載「希望の明日へ―個別具体の中のリアルな真実―」第4章(その2)

新企画連載
希望の明日へ
―個別具体の中のリアルな真実―

「お任せ民主主義」は諸悪の根源である

政治資金パーティー裏金問題に端を発し
政治権力の底知れぬ構造的腐敗
権力のまさしく本質が
ようやく国民の目にさらけ出されつつある。

 政治家は欺瞞に充ち満ちた
 「選挙」という実に卑小な枠組みに
 すっかり取り付かれ
 私利私欲に走り、保身をはかる
 ついには、骨の髄まで腐り切っていく。

それを許してきた温床は
まさしく戦後長きにわたって
「お任せ民主主義」に安住し
主体性を失い
ますます内向きになっていく
国民の脆弱な意識そのものではなかったのか。

 今、この恐るべき現実を突き付けられ
 こんな筈ではなかったと
 やっと気づきはじめたのかもしれない。

だが、驚くべきことに
当の政治家自身が
そもそも道義的にも失ったはずの「議席」に居座り
平然と権力を温存し、勝手気ままに
生き残ろうと画策している始末なのだ。

 この現実はあまりにも根深い
 だから、今度こそは騙されてはならない。

結局それは、心の奥底から掘り起こす
私たち自身のまさに意識の大転換でなければならないのだ。

 生命系の未来社会論具現化の道としての
 「菜園家族」社会構想の根底には
 人びとの心に脈々と受け継がれてきた
 大地への回帰と止揚(レボリューション)という
 民衆の揺るぎない歴史思想の水脈が
 深く静かに息づいている。

まさにこの民衆思想が
冷酷無惨なグローバル市場に対峙し
大地に根ざした
素朴で精神性豊かな生活世界への
新たな局面を切り拓くであろう。

 世界は変わる
 人が大地に生きる限り。

第4章  地域再生に果たす国と地方自治体の役割(その2)

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連載「希望の明日へ―個別具体の中のリアルな真実―」
第4章 地域再生に果たす国と地方自治体の役割(その2)
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青色の線・水色の三角パネルの幾何学模様

3 新しい地域金融システムと交通システムの確立

 森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)が相対的に自立度の高い経済圏として成立するためには、どのような前提が必要になるかを、もう少し考えてみましょう。
 長期的展望に立った流域地域圏(エリア)の基本構想を立案し、それを計画的に実行していくためには、後述する森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)自治体(郡)ともいうべき体制を整える必要があります。
 そして、今日の税制のあり方を抜本的に改革した地方自治体の財政自治権を確立することが不可欠の課題です。

 その上で、国および都道府県レベルに創設される公的機関「CO削減(C)と菜園家族(S)創出の促進(S)機構(K)」(略称CSSK)との連携を強化しつつ、流域地域圏(エリア)自治体(郡)が自らの判断で、「菜園家族インフラ」への的確な公共投資を計画的に行えるような、地域政策投資のシステムを確立しなければなりません。

 また、相対的に自立度の高い経済圏が成立するためには、流域地域圏(エリア)内でのモノやカネやヒトの流通・交流の循環の持続的な成立が大切です。そのためには、流域地域圏(エリア)内での生産と消費の自給自足度、つまり「地産地消」の水準が、可能な限り高められなければなりません。

 そして、地域融資・地域投資の新しい形態として、土地とか建物を担保にしてお金を貸す従来型のバンクではなく、事業性や地域への貢献度から判断してお金を貸す、本当の意味でのコミュニティ・バンクの創設が肝心です。
 そして、地域通貨を導入するなど、自律的な小経済圏を支える独自の経済システムを整えていく必要があります。

 今日では、地域住民一人ひとりの大切な預貯金は、最終的には大手の都市銀行に吸いあげられ、都市銀行にとって投資効率のよい、流域地域圏(エリア)外の重化学工業やハイテク産業や流通業など第2次・第3次産業の分野に融資されています。
 林業や農業や零細家族経営や中小企業のような本質的に生産性の低い、しかしながら流域地域圏(エリア)の自然環境や人間の生命にとって直接的に大切な分野には、なかなか投資されません。
 これは、まさに利益本位の市場原理至上主義によるものです。こうした状況を放置すれば、いつまでたっても地域経済を建て直すことはできないでしょう。

欧米の手紙(裁縫道具の絵柄)

 ヨーロッパは、日本とはかなり事情が違うようです。イギリスやオランダやドイツでは、経済的利益だけではなく、環境、社会、倫理的側面を重視して活動する金融機関「ソーシャル・バンク」が存在し、主に個人から資金を預かり、社会的な企業やプロジェクト、チャリティ団体やNPOなどに投融資を行い、社会的にも重要な役割を果たしています。
 こうした金融機関では、通常の預金や融資、投資信託などとは異なり、資金提供者が重視する価値を実現するための仕組みが金融商品や資金の流れに組み込まれています。地域づくりや環境保全において、相互扶助を基本理念に今日的な「意志あるお金」の流れの活性化に貢献しています。

 公的機関から認証を受けたプロジェクトには優遇税制があるために、個人預金者や投資家は低い金利や配当でも受け入れるようになっています。それは、表面上の預金金利が低くても非課税措置があるため、預金者の実際の手取額は、通常の預金とほぼ同じとなるからです。
 また、融資先のプロジェクトは認証を受けることで、調達コストの低い資金を原資として、通常よりも低い金利で融資を受けることができる仕組みになっているのです。

 このようなソーシャル・バンクが存在している要因はいろいろ考えられますが、歴史的には、イギリス産業革命以来の協同組合運動の発祥の地としての伝統的広がりがあげられるでしょう。
 近年は、EU統合下における金融環境や社会問題を背景に、公的部門でも営利部門でもない民間非営利部門が発達しているという事情もあります。

 日本でも、信用組合や信用金庫があるにはありますが、実際には金融庁の統括のもとにあって、大銀行と同じような規制で縛られています。小規模の事業に対する融資や補助金の斡旋がきわめて不十分であると言わざるをえません。

山村の田舎家2軒

 とはいえ、過去において、金融の相互扶助の伝統が皆無であったというわけではありません。前近代の循環型社会において、とりわけ室町時代から近世江戸時代かけて各地の農村でさかんであったといわれている「頼母子講(たのもしこう)」は、相互扶助的な金融組合でした。
 組合員が一定の掛け金をして、一定の期日にくじまたは入札によって所定の金額を順次に組合員に融通する仕組みだったといわれています。

 今日の中央集権的、寡頭金融支配のもとでは、「菜園家族」や「匠商(しょうしょう)家族」が森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)を舞台に、新しい相互扶助の精神にもとづく協同組織体「なりわいとも」を結成し、流域地域圏(エリア)の再生をめざして活動を開始しようとしても、その芽はことごとく摘まれてしまうでしょう。
 原初的な相互扶助の精神に支えられた金融機関の伝統が日本にもあったことを考えるとき、21世紀の未来に向けて、地域における新しい金融のあり方を模索し、その可能性をもっともっと広げていくべきです。
 前近代に胚胎していた伝統的精神を生かし、ヨーロッパの優れた側面を取り入れながら、「菜園家族」構想独自の金融システムを地域に確立して、顔の見える相互扶助の地域経済をつくっていかなければなりません。

 コミュニティ・バンクのような、比較的大きな財政的支援を必要とする金融機関の創設については、流域地域圏(エリア)自治体(郡)だけではなく、広域地域圏すなわち都道府県レベルとの連携共同による支援体制が必要です。
 そのシステムが確立されれば、巨大都市銀行に頼ることなく、住民一人ひとりの小さな財力を、新しい独自の金融・通貨システムを通じて、地域に還流させることが可能になるでしょう。
 住民自らが新たにつくり出したこの新しい金融・通貨システムを通じて、住民は自らの地域経済の自立のために、ささやかながらも常時貢献する道が開かれるのです。

 森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)に創設されるべきコミュニティ・バンクにとって大切なことは、活動の理念の明確化です。つまり、流域地域圏(エリア)を「菜園家族」構想に基づき自然循環型共生社会に再生させ、人間復活をめざす活動の支援に徹するという理念です。その上で、融資先の明確化と持続的な支援活動が重要になります。

 まず農地、住居、水利など「菜園家族インフラ」の整備を基軸に据えながら、有畜複合農業、有機農業、有機食品加工、森林保全・育成、再生可能エネルギーの研究・開発などへの支援を行います。
 また、社会的ビジネス支援としては、製造、販売、 専門サービス、観光・交流、文化・社会支援としては、教育・保育、医療、福祉、芸術・文化、まちづくり、商店街の活性化などがあげられるでしょう。

 コミュニティ・バンクは、こうした零細家族経営や中小の事業を支援することによって、地域のきめ細やかな雇用づくりにも寄与するのです。もちろんこれらコミュニティ・バンクの支援活動は、先述のCSSKメカニズムとの連携のもとで相互補完しつつ、両者それぞれの特性を生かしながら、進めていくことになります。

 また、個人預金者を中心とする資金提供者の「お金に対する意志」を尊重するために、融資先の情報や融資原則の公表が大切です。預けたお金の使われ方の情報開示と透明化によって、地域住民の当事者意識が高められ、それが「地域のために」という心を育て、地域の活性化にもつながっていきます。
 さらには、投融資先分野の指定など、「お金の使われ方」に住民が関与する民主的で恒常的な方法・システムを確立しなければなりません。そのためには、社会的事業に対する融資審査のスキルも、諸外国の事例を研究し、蓄積していくことが必要でしょう。

 もちろん、コミュニティ・バンクの創設とその運営、そしてそのありようは、「菜園家族」を基調とするCFP複合社会がどのように展開し、円熟していくかによって変わっていきます。
 こうしたコミュニティ・バンクを強化し、CFP複合社会を発展させていくことによって、資本主義セクターC内の従来型の巨大都市銀行も、次第に自然循環型共生社会に適合したものに変質して行かざるを得なくなるでしょう。

「菜園家族」構想にふさわしい物流と交通システムの形成
 物流に関していえば、流域地域圏(エリア)内に含まれる彦根市の市街地や多賀、甲良、豊郷の三町の中心街の各所に、定期的な青空市場を設置するなど、近郊農山漁村の「菜園家族」の余剰農産物を流通させるシステムをつくり出す必要があります。
 日本は、先進諸国の中でも、長距離輸送による食糧・木材供給への依存度が、異常なまでに高い国です。「地産地消」システムの確立は、フード・マイレージ(図4-1)、ウッド・マイレージの観点から、CO排出量削減に大いに寄与することになるでしょう。

図4-1 各国のフード・マイレージの比較(2001年・品目別)
図4-1各国のフード・マイレージの比較(2001年・品目別)
(注)フード・マイレージとは食料の輸送量に輸送距離をかけ合わせて累積した数値。単位はトン・キロメートル(t・㎞)。
(出典)中田哲也『フード・マイレージ』日本評論社、2007年

 「森の菜園家族」や「野の菜園家族」、そして「匠商家族」による「なりわいとも」は、こうしたシステムづくりを担う重要な役割を果たします。
 同時に、外部大資本による郊外の巨大量販店の規制によって、零細家族経営や中小業者は甦るでしょう。

 流通システムの環境整備の点からは、新しい交通体系の確立が大切です。
 日本の伝統的旧市街や商店街が集中する都心部では、車社会に対抗する交通システムの整備がきわめて遅れています。
 郊外型巨大量販店の出店を許している客観的条件として、都心部における交通システムの整備の遅れが指摘されてきました。
 中核都市の中心部における拠点駐車場の設置と、これにつながる自転車・歩道網の整備などが重要な課題になります。

 新しいタイプの地方中核都市では、中心市街地においても、近隣の農山漁村地域と結ぶ交通網においても、公共交通機関のあり方をあらためて見直さなければなりません。
 燃料についても、化石燃料に代替する、森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)内の自然資源を活かしたエネルギーを研究開発し、人びとの暮らしを支え、環境の時代にふさわしい新しい交通体系を確立する必要があります。
 こうした自然循環型共生の農村・都市計画における流通・交通体系の研究開発の分野でも、CSSKとの連携の強化によって、いっそうの成果をあげることができるにちがいありません。

 流域地域圏(エリア)に自立的な経済圏を確立する上で、圏内の都市機能の充実の重要性をもう一度確認しておきたいと思います。
 城下町や門前町としての歴史的景観の保全や、文化・芸術・教育・医療・社会福祉機能の充実、さらには商業・業務機能と調和した都市居住空間の整備を重視し、かつ市街地においても「菜園」の配置を十分に考慮した上で、緑豊かな田園都市の名にふさわしい、風格あるまちづくりをめざさなければなりません。
 それは、森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)全域に広がる“森”と“野”と“街(まち)”の「菜園家族」や「匠商家族」のネットワークの中核としての都市であり、持続的な流域地域圏(エリア)循環の中軸としての大切な機能を担う、新しい時代の豊かな地方都市の姿なのです。

4 「菜園家族」構想は地方自治体のあり方を根底から変える

 「菜園家族」の時代においては、各流域地域圏(エリア)内で「菜園家族」や「匠商家族」が、週休(2+α)日制のワークシェアリング(但し1≦α≦4)のもとに自立の基盤を確立し、それぞれの「地域」にしっかりと根づいて暮らしを営んでいます。その点では、今日の家族や地域のあり方とは、異次元のまったく違ったものになっているはずです。

 今日では、サラリーマンのほとんどが、週のうち5日間も企業やその他の職場に拘束されていて、昼間は居住する地域にはいません。しかも、子どもは塾へ、妻はパートへ、青年期に達した息子や娘はバイトへといった具合に、日中は、老人以外は地域に人の姿はほとんど見あたらず、家族や地域そのものが抜け殻のように空洞化しています。

 一方、「菜園家族」の時代においては、地域住民にとって、自らの「家族」や「地域」そのものが、仕事と生活の主要な舞台になります。
 したがって、地域住民は、市場競争至上主義の「拡大経済」下では考えられもしなかった「新しい人間」として登場すると言ってもいいでしょう。地方自治や国政にも直接的に参加できる、本当の意味での条件を備えた人間になっているのです。

赤い花・黄緑の葉っぱ・薄紫の実

 「菜園家族」を基調とする社会では、家族が本来もっていた固有の原初的な育児や教育や介護や医療などの多面的な機能が復活し、家族同士の自然生的な日常の相互扶助を基礎に、地域の協同性も自ずと甦ります。
 こうした地域では、「菜園家族」や「匠商家族」の自主・自発的な任意の協同組織体である「なりわいとも」が生まれ、多面的で豊かな活動を活発に展開していくでしょう。
 また、住民・市民の一人ひとりが、それぞれの関心に沿って、NPOやNGOなどの任意の市民団体や組織に自主的に参画し、多彩な活動を繰り広げ、地域の暮らしに潤いと彩りを与えていきます。

 このような「なりわいとも」や各種市民組織は、隣保、集落、市町村、郡、都道府県などのレベルに重層的な団粒構造となって形成され、相互補完し合いながら活動していくのです。
 こうした社会的基盤の上に、文化や芸術、科学、教育、スポーツ、あるいは個々人の趣味のレベルに至るまで、人間のあらゆる活動が、ますます盛んに行われます。
 家族と地域が自立の基盤を得て、新しい姿に変貌しうるということを前提にして、新たな時代にふさわしい国や地方自治体のあり方を考えていきましょう。

 地方自治は、都道府県や市町村の常勤職員にすべてを任せて、住民はサービスを受ければいいというこれまでの考えから脱却して、住民主体の本当の意味での民主的で自律的な内実へと変わっていくにちがいありません。
 「家族」に固有の機能が甦るなかで、社会保障のあり方も根本的に見直され、地方自治体や国の今日あるような莫大な赤字財政は、根底から解消されていくでしょう。

 住民の多種多様な生活や活動から生まれるさまざまな要求が集約され、公正に実現されるためには、地方自治体、なかんずく「議会」の果たす役割は、ますます重要になります。
 一市三町からなる犬上川・芹川流域地域圏(エリア)を例に考えると、基本的には、彦根市、多賀町、甲良町、豊郷町のそれぞれに、「議会」の機能と「行政」の機能からなる地方自治体が形成されます。彦根市の場合は、市街地と田園地帯・森林地帯に分けて、新たに小さな自治体をおくことも考えられるでしょう。

 これまで、市町村合併が押しすすめられ、さらには道州制の議論も登場していますが、地方自治体を合併して大きくすればいいということには、必ずしもなりません。自治体が住民とできる限り直接的に緊密な相互関係を保てるかが、民主主義を形式としてではなく、実質化する上で大切だからです。

フランス国旗

 ヨーロッパ随一の農業国フランスでは、日本でいう自然村が現在もほぼ維持され、誇り高く自治を行っているといわれています。人口は100~300人程度が一般的なようです。
 こうした小さな村は、「コミューン」と呼ばれ、基礎的自治体としての形式を備えつつ、実態としては、農業集落の性格をあわせもっています。その起源は、少なくともフランス革命前の教区(キリスト教の布教や監督上、一定地域にある教会をまとめた教会行政上の単位)に遡り、以来、ほぼ変わらず21世紀の今日に受け継がれているといわれています。

 日本の農業集落ほどの規模であるこの「コミューン」には、もちろん地域に密着した小さな学校などが息づいていますが、いわゆる行政実務のための職員は、ほとんどいないようです。
 対話によって村人の意見を集約し、コミューン連合や県といった上位レベルの地方自治体に働きかけたり、国に要請するという、意見の集約機関としての性格が濃いといわれています。実際的で、きわめて民主的な「議会」という機能の側面が強い機関であるといってもいいのかもしれません。

 こうした小さなコミューンが基盤になりながらも、小さいがゆえに単一では提供が困難な住民サービス事業を果たすために、コミューン間協力が発達しているといわれています。
 また、全学年を1つの学級に編制したいわゆる「単級学校」(1つの学校に1つの学級)と呼ばれる小規模小学校が、全小学校数のおよそ4分の1を占めているそうですす。

黄緑の葉っぱ2枚

 中部オーベルニュ地方の小さな村の小学校を舞台にしたドキュメンタリー映画『ぼくの好きな先生』(監督 ニコラ・フィリベール、2002年、フランス)は、この「単級学校」で20年にわたり教鞭をとってきたロペス先生と、村の子どもたちの姿を生き生きと描いています。先生は、1つの教室で3~11歳までの全校生徒13人を1人で教え、奮闘するのです。
 フランスでは、公開後、ドキュメンタリー映画としては異例の200万人にせまる観客を動員し、爽やかな感動を呼び起こしているそうです。

 こうした一例からも、フランスの地域主権の伝統的精神の底流が、現代にも確かに息づいていることを垣間見ることができます。
 日本の地方自治体のあり方を、自然条件も、歴史的、文化的背景も異なるフランスの場合と単純に比べて論ずることはできませんが、そこにある考え方の本質は、学ぶべきところがおおいにあるのではないでしょうか。

 犬上川・芹川流域地域圏(エリア)を例に考えてみると、農林漁業や零細・中小経営を基盤とする「菜園家族」や「匠商家族」がその主体であるかぎり、農業集落規模、つまり大字(おおあざ)のレベルにおける、日常に根ざした実際的な「議会」を、基礎的な自治組織として明確に位置づける必要があると思われます。

 この集落レベルの「議会」は、戸主だけでなく、さまざまな世代が男女の別なく参加する、村の総会的な性格のものになれば、多様な意見が自由に出され、話し合いは活性化します。特に若い世代にとっては、民主主義の「学校」の役割も果たすでしょう。

 そして、森の集落大君ヶ畑(おじがはた)をはじめ、広大な山中や平野部に散在する集落の「議会」で話し合われたことは、一市三町ごとの「議会」に各集落から代表者が送られて話し合われます。
 各市町村レベルの力量では解決できない課題については、犬上川・芹川流域地域圏(エリア)自治体(郡)レベルの「議会」で話し合われることになります。この「議会」は、市町村レベルの「議会」の議員と兼任する者と、広く直接選挙で選出される者とで構成されるでしょう。こうした議員は、民主主義の実質化と財政的な見地から、従来、踏襲されてきた職業的なものではなく、原則としてボランティア的性格になります。

 流域地域圏(エリア)自治体(郡)レベルで解決できない課題は、都道府県レベルの「議会」で話し合われます。
 このように、「議会」についても、集落、市町村、流域地域圏(エリア)自治体(郡)、都道府県という多次元にわたる団粒構造が形成されてはじめて、流域地域圏(エリア)自治体(郡)は、地域圏(エリア)全住民の意見をよりよく反映し、エネルギーを汲みあげることができるのです。
 そして、流域地域圏(エリア)自治体(郡)は、地域圏(エリア)全体を展望して、長期的で総合的な地域未来ビジョンを企画立案するという、重要な任務を果たさなければなりません。

青い山の背から昇る太陽

 国の役割は、大都市圏と地方に現れる地域間格差の是正です。国民一人ひとりに生まれながらにして等しく授けられている自然権としての基本的人権、なかでも生存権・生活権を保障するために、教育・医療・介護・年金などを国民に等しく提供しなければなりません。
 こうした下位から上位に至る自治体の団粒構造的相互補完のなかでこそ、住民にとって最も身近である集落が、生き生きと甦ってきます。

 教育や、医療、介護など社会福祉の現場でもまた、重層的な団粒構造をなす地方と国の自治機能に則さなければなりません。
 身近な集落の保育園・幼稚園や、小学校・中学校およびその分校から、高校、大学に至る教育体制、あるいは、集落の小さな診療所から、市町村のかかりつけ医院、さらにより高度な設備の備わった流域地域圏(エリア)の中核総合病院に至る医療体制・・・。
 重層的な団粒構造を形づくりながら、住民の安心・安全な暮らしのために、その機能を十全に発揮していくでしょう。

 このような基本原理をふまえた上で、肝心なことは、まず、あるべき行政サービスの総量をいかにして国、そして都道府県と市町村に仕分けするかです。そして、各地方自治体が、どのような体制で所掌範囲の仕事を行うかです。
 その際、住民とのつながりを強化する姿勢が大切です。市町村レベルの自治体を、意見の集約機関の側面に重点をおいて捉えるならば、市町村レベルの自治体を合併するのではなく、むしろ住民の意見を集約する「議会」としての機能を強化し、他方、「行政」実務は、できるだけ住民のボランティア活動との連携を強めることによって、かなりの部分をこなし、しかもその質を高めていく必要があります。

卓上カレンダー

 そこで重要なのは、地方自治体の職員自身が、週休(2+α)日制のワークシェアリング(但し1≦α≦4)のもと、「菜園」など自立の基盤を保障され、「菜園家族」や「匠商家族」の身分になっているという点です。したがって、今日のいわゆる「公務員」からイメージされる姿とは、質的にかなり異なるものになるでしょう。

 自治体が自らすすんで、週休(2+α)日制の「菜園家族」型ワークシェアリングを実行すれば、週の(2+α)日は、自らの「菜園」、あるいは手工業や商業やサービス部門など、さまざまな職種の自営業の仕事に携わりながら、残りの(5-α)日は自治体職員として働くという体制が、地域にできあがります。
 その結果、さまざまな職種の人びとの意志や経験が、恒常的に地方行政に反映され、今までには考えられなかった形で、行政は住民との結びつきを強めて、活性化の方向へ向かうのです。こうして本当の意味での住民の行政参加が実現され、行政のあり方も根本から大きく変わるでしょう。

 こうした視点に立つならば、比較的大きな彦根市は、市内を4~5に分割してそれぞれに自治体をおき、その上で、一市三町の自治体群が連合して、7~8の市町村レベルの小自治体からなる流域地域圏(エリア)自治体(郡)を形成するということも考えられるでしょう。
 その結果、「議会」としての機能と、「行政」の実務的な機能を過不足なく調和のとれた形で果たすことになるのです。

 本来、地方自治とは、住民自らが、「議会」にも「行政」にも、直接参加すべきものであるはずです。
 それを可能にする条件は、週休(2+α)日制の「菜園家族」型ワークシェアリングによって、住民が生活時間のほとんどを従来の「職場」ではなく、家族、そして「地域」で過ごすことです。効率性を度外視してでも、その潜在的、革命的とも言うべき意義の計り知れなく大なることをここで再度、確認しておきたいと思います。
 いずれにせよ、地方自治体の「議会」機能と「行政」機能がどうあるべきかは、今後の課題として残されています。地域の歴史的背景や自然などの特殊条件を個別具体的に調べ、また、諸外国での経験もふまえて、じっくり考えていくべきでしょう。

このことについては、最近、当里山研究庵Nomadホームページで連載した「要諦再読」の「その23」(2023年7月28日付)および「その24」(2023年8月4日付)において、「『菜園家族』を土台に築く近代超克の円熟した先進福祉大国 ―高次の新たな社会保障制度を探る― ①・②」と題して、詳しく展開している。
 「要諦再読 その23」https://www.satoken-nomad.com/archives/2499
 「要諦再読 その24」https://www.satoken-nomad.com/archives/2509

第4章3節・4節の引用・参考文献(一部映像作品を含む)
金岡良太郎『エコバンク』北斗出版、1996年
加藤敏春『エコマネー』日本経済評論社、1998年
リチャード・ダウスウェイト『貨幣の生態学』北斗出版、2001年
藤井良広『金融NPO ―新しいお金の流れをつくる』岩波新書、2007年
井上有弘「欧州ソーシャル・バンクの現状と信用金庫への示唆」『金融調査情報』19-11、信金中央金庫総合研究所、2008年3月
中田哲也『フード・マイレージ ―あなたの食が地球を変える―』日本評論社、2007年
大江正章『地域の力 ―食・農・まちづくり―』岩波新書、2008年
石井圭一「地方制度と農村振興 ―フランスのコミューンと集落―」『農林水産政策研究所レビュー』6号、農林水産省農林水産政策研究所、2002年 
石井圭一「フランス農村にみる零細コミューンの存立とその仕組み」『農林水産政策研究所レビュー』11号、農林水産省農林水産政策研究所、2004年
ドキュメンタリー映画『ぼくの好きな先生』監督 ニコラ・フィリベール(1時間44分)、2002年、フランス
室井力 編『現代自治体再編論 ―市町村合併を超えて―』日本評論社、2002年
保母武彦『市町村合併と地域のゆくえ』岩波ブックレット、2002年
大森彌・大和田建太郎『どう乗り切るか市町村合併 ―地域自治を充実させるために―』岩波ブックレット、2003年
保母武彦『「平成の大合併」後の地域をどう立て直すか』岩波ブックレッ、2007年

       ――― ◇ ◇ ―――

新企画連載「希望の明日へ ―個別具体の中のリアルな真実―」の掲載にあたっては、明らかな誤字・脱字・舌足らずな表現の類い等の若干の訂正以外は、原典『菜園家族21』(コモンズ、2008年)が出版された15年前の時点でのこの地域の実情をそのまま忠実に再現し伝えることを期して、統計資料、地図、文中の統計数字、関連する諸研究の成果などについては、改変を加えることなく、出版当時の通り、そのまま原典から収録することにしました。

2024年2月9日
里山研究庵Nomad
小貫雅男・伊藤恵子

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新企画連載「希望の明日へ ―個別具体の中のリアルな真実―」の≪目次一覧≫は、下記リンクのページをご覧ください。
https://www.satoken-nomad.com/archives/2726

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