連載「希望の明日へ―個別具体の中のリアルな真実―」第4章(その1)

新企画連載
希望の明日へ
―個別具体の中のリアルな真実―

「お任せ民主主義」は諸悪の根源である

政治資金パーティーに端を発し
政治権力の底知れぬ構造的腐敗
権力のまさしく本質が
ようやく国民の目にさらけ出されつつある。

 政治家は欺瞞に充ち満ちた
 「選挙」という実に卑小な枠組みに
 すっかり取り付かれ
 私利私欲に走り、保身をはかる
 ついには、骨の髄まで腐り切っていく。

それを許してきた温床は
まさしく戦後長きにわたって
「お任せ民主主義」に安住し
主体性を失い
ますます内向きになっていく
国民の脆弱な意識そのものではなかったのか。

 今、この恐るべき現実を突き付けられ
 こんな筈ではなかったと
 やっと気づきはじめたのかもしれない。

だが、驚くべきことに
当の政治家自身が
そもそも道義的にも失ったはずの「議席」に居座り
平然と権力を温存し、勝手気ままに
生き残ろうと画策している始末なのだ。

 この現実はあまりにも根深い
 だから、今度こそは騙されてはならない。

結局それは、心の奥底から掘り起こす
私たち自身のまさに意識の大転換でなければならないのだ。

 生命系の未来社会論具現化の道としての
 「菜園家族」社会構想の根底には
 人びとの心に脈々と受け継がれてきた
 大地への回帰と止揚(レボリューション)という
 民衆の揺るぎない歴史思想の水脈が
 深く静かに息づいている。

まさにこの民衆思想が
冷酷無惨なグローバル市場に対峙し
大地に根ざした
素朴で精神性豊かな生活世界への
新たな局面を切り拓くであろう。

 世界は変わる
 人が大地に生きる限り。

第4章  地域再生に果たす国と地方自治体の役割(その1)

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連載「希望の明日へ―個別具体の中のリアルな真実―」
第4章 地域再生に果たす国と地方自治体の役割(その1)
(PDF:427KB、A4用紙7枚分)

三角のパターン

 市場原理が徹底して貫徹している一国の経済体制のただ中に、「菜園家族」を創出し、それを基軸に、いわば異質とも言うべき、相対的に自立度の高い自然循環型共生の経済圏を構築するということは、言うまでもなく容易ではありません。したがって、国と地方自治体は、その生成・構築のための環境づくりに格別に大きな役割を果たさなければならないことになります。

 国と地方自治体の施策については、第2章4節で提起したCSSKメカニズムを有効に活用していくことが大切です。
 この章では、鈴鹿山脈と琵琶湖を結ぶ犬上川・芹川流域地域圏(エリア)(彦根市、犬上郡多賀町・甲良町・豊郷町の一市三町)を想定し、国や地方自治体の果たすべき具体的な役割と、「菜園家族」時代の地方自治のあるべき姿について、現段階で考えうる重要な点を述べていきたいと思います。

1 公的「農地バンク」の設立 ―農地と勤め口(ワーク)の一体的シェアリング

 「菜園家族」構想を実現していく最初の段階で、まず、国や地方自治体が直面する重要課題は、「菜園」、つまり農地の確保と、週休(2+α)日制のワークシェアリング(但し1≦α≦4)の確立です。両者を相互に関連させて、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

 週休(2+α)日制のワークシェアリングによる三世代「菜園家族」が形成されるためには、家族構成に見合う形で、一定の農地が恒常的に確保され、保障されなければなりません。初期の段階では、様々なケースが考えられます。
 兼業農家の場合は、農地をすでに保有しているので、若い後継者に週に(5-α)日の従来型の「勤め口」(ワーク)が保障されさえすれば、比較的スムーズに「菜園家族」への移行が可能です。
 また、都会に生活している家族でも、田舎の実家に高齢の両親がいて、農地や家屋がある場合には、実家に戻って、週(5-α)日の従来型の「勤め口」(ワーク)が確保できさえすれば、同じようにスムーズに移行できます。

 この2つのケースが着実に促進されれば、森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)上流域の森林地帯の過疎高齢化の問題は、おおいに解決の方向へと動き出すでしょう。中流域から下流域にかけての田園地帯でも、同様です。

 サラリーマンで農地をまったくもたず、農村に親戚や知人などの身寄りもない人が、「菜園家族」を希望するケースも、これからは多いでしょう。そのとき、農地をどう保障するのか、しっかりした土地活用制度の確立が不可欠です。
 農地をもつ兼業農家の場合も、住んでいる家屋の近くに農地が配置されているかどうかが、家畜などを含む多品目少量生産を楽しむ「菜園家族」にとっては、きわめて重要です。また、家族構成の変化に応じて、農地が柔軟に再配分されるシステムが大切になります。

ふたば

 こうした問題を解決するためには、個々人の間で個人的に農地を融通し合うよりも、市町村レベルの自治体が、公的な「農地バンク」を設立し、その保証と仲介によって農地を有効かつフレキシブルに活用できる体制を早期につくりあげることが必要です。
 都会から新規に就農を希望する若者や団塊世代にとっても、この公的「農地バンク」のもつ意義は大きいでしょう。

 この公的「農地バンク」は、事前に地域の実情を十分に調査した上で、計画・立案されなければなりません。そして、第2章4節で述べた国および都道府県レベルに創設される公的機関「CO削減(C)と菜園家族(S)創出の促進(S)機構(K)」(略称CSSK)との連携のもとに、市町村が実施する「菜園家族」創出促進事業への支援や、個々の「菜園家族」が必要とする「菜園家族インフラ」への直接的経済支援(助成金や融資など)を行います。

 次に、週休(2+α)日制のワークシェアリングの課題についてですが、森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)内の中小都市にある小学校・中学校・高校・大学・保育園・幼稚園・病院・市役所・町役場・図書館・文化ホール・福祉施設などの公的機関や、民間企業、諸団体など、ありとあらゆる職場にわたって、まず、「勤め口」の詳細な実態を把握することが大切です。
 その上で、週休(2+α)日制のワークシェアリングの可能性を具体的に検討し、素案を作成しなければなりません。

 そのためには、民間企業や公的機関の職場代表、後述する流域地域圏(エリア)自治体(郡)や下位レベルの自治体(市町村)、それに広範な住民の代表から構成される、農地とワーク(勤め口)の一体的シェアリングのための三者協議会(仮称)を発足させます。この協議会が「点検・調査・立案」の活動をスタートさせ、三者による農地とワーク(勤め口)の一体的シェアリング実施の基本協定を結ぶのです。

 週休(2+α)日制のワークシェアリングは、公的「農地バンク」の設立とその活動に、密接に連動します。というのは、後継者確保に悩む兼業農家が、余剰分の農地を公的「農地バンク」に委譲する際、その代償として、息子や娘に、週(5-α)日の「従来型の仕事」を斡旋する仕組みになっていれば、息子や娘は、次代の三世代「菜園家族」としての基盤を得ることになるからです。
 こうして、農地所有者から公的「農地バンク」への余剰分の農地の委譲は、スムーズに促進されていくことでしょう。

 一方、農地をもたないサラリーマンも、自らがすすんでワークをシェアすることによって、公的「農地バンク」を通じて農地の斡旋を受けることになります。また、失業や不安定労働に悩む都市や地方の人びとに対しては、この公的「農地バンク」のシステムによって、農地とワーク(勤め口)の斡旋を行います。

 住居についても、公的「農地バンク」を通じて、空き農家の斡旋を受けられるような体制になっていることが大切です。長らく空き家となり閉ざされたままでは朽ちるのを待つばかりの古民家も、新たな住人を得て再び息を吹き返すことになるでしょう。

 こうして、公的「農地バンク」は、後継者に悩む農家にとっても、これから農地や住まいを必要とするサラリーマンや不安定雇用に悩む人びとにとっても、「菜園家族」的な暮らしに移行するにあたって、なくてはならない重要な役割を果たしていくでしょう。

白かぶら

 もちろんこれは、社会経済の客観的情勢の変化にともなって、「菜園家族」構想が地域住民の圧倒的大多数によって支持されることが大前提です。
 ただし、この前提は、手をこまねいているだけで自然に成立するものではありません。住民・市民による「郷土の点検・調査・立案」の日常不断の連続螺旋(らせん円環運動と、それに伴う地域認識の深化と地域変革主体の形成によってはじめて、その環境は準備されます。
 こうした広範な市民的・国民的運動の高まりの中で、地方自治体が主導性を発揮して、農地問題を解決すれば、週休(2+α)日制の「菜園家族」型ワークシェアリングが、森と海(湖)を結ぶ流域地域圏(エリア)全域に、次第に確立されていくでしょう。

 日本の農家1戸あたりの農地の平均面積は1.8ヘクタールと、アメリカ(178.4ヘクタール)の100分の1です。フランスの45.3ヘクタールや、イギリスの57.4ヘクタールなど、EU各国と比べても、規模の小ささが際立っています。貿易自由化交渉で焦点となっているオーストラリアに至っては、日本の1900倍もの規模(3426.0ヘクタール)です。

 農業経営の側面から見ても、そして、農業とは私たちにとって何かを根源的に再考してみても、日本には日本独特の地形的、自然的条件があり、社会的、歴史的背景があります。それにマッチした、独自の農業のあり方を追求すべきです。
 農を単なる「農業問題」に矮小化するのではなく、都市住民を含めた全国民的な広い視野から、人間復活をめざす新たな課題として位置づけ、根本から考え直さなければならないときに来ています。
 「菜園家族」構想に基づく週休(2+α)日制のワークシェアリングと密接に連動する、公的「農地バンク」は、この課題解決へのひとつの具体的な提案でもあるのです。

 欧米諸国との単純な比較によって、短絡的に農地規模の拡大化路線を走る今日の流れに歯止めをかけなければ、農村のみならず、都市の暮らしの行き詰まりの打開は望めません。
 すべての農家、そして、広く都市住民の生活と命運にも関わる、この重要な国民的課題を、ごく一部の政治家や官僚や「学者」に委ねていいわけがありません。
 私たちのいのちと暮らしを根底で支えている日本農業は、重大な岐路にさしかかっています。広く国民的議論を展開し、日本独自の道を探るべきではないでしょうか。

2 「菜園家族」のための住宅政策 ―戦後ドイツの政策思想に学ぶ

 「菜園家族」構想は、近代資本主義の形成とともに衰退した家族を、生産手段との「再結合」によって再生しようとするものです。したがって、人間活動の基軸は、企業などの職場から「家族」や「地域」の場に移り、「菜園」と並んで住宅が、これまでになく主要な場になります。
 この問題においてもまた、国や地方自治体の政策がいかに大切であるかを理解するために、第2次世界大戦直後、戦後復興の極めて困難な時期に、当時の西ドイツで打ち出された住宅政策や都市計画・国土政策を想いおこす必要があるでしょう。

緑の森

 戦後、W・レプケらの地域主義の基本理念に立って政策を推進した西ドイツ政府は、国や社会の繁栄の基礎は家族にあるとして、家族が安心して平和に暮らせるためには、何よりもしっかりとした住宅の整備からはじめなければならないと考えました。
 「社会の基軸に家族をおく」というこの考え方は、“森と家族の共生”という、森の民としてのゲルマン民族独自の伝統的思想を受け継いだものである、と言われています。この基本的な考えに基づいて、住宅政策が進められていったのです。

 敗戦直後の厳しい財政事情にもかかわらず、公的財政支援を行って、住宅耐久年数100年という建築基準を定め、100年間の長期無利息で、建築に必要な資金の70%を融資する制度を実施しました。つまり、親子三代にわたる、長期無利息の返済制度です。
 その結果、緑に囲まれ、自然の景観に調和した、美しくどっしりとした住宅が次々に建てられていきました。
 高度経済成長期の日本において、その場しのぎの政策によって、狭い土地に密集して住宅が建てられていくのを見て、ドイツの元首相シュミットが「ウサギ小屋」と評したのとは、たいへんな違いです。
 それは、住宅そのものが貧弱であるということ以上に、高度成長期の日本人の考え方、とりわけ国や地方自治体の政策の根幹をなす思想そのものが問われているということなのです。

 こうした反省に立って、「菜園家族」構想は、住宅問題を重視しなければなりません。
 三世代「菜園家族」の活動にふさわしい、多品目少量生産を楽しめる、のどかな「菜園」に囲まれ、何代にもわたって住むことができる耐久性のある、快適でどっしりとした家でなければならないのです。それも、日本の風土に適していなければ、快適であるはずがありません。この点では、伝統的な日本の木づくりの民家や農作業に適した農家の構造に多くを学ぶことになるでしょう。

 私たちが調査活動の拠点・里山研究庵Nomadをおく犬上川・芹川流域地域圏(エリア)にに隣接する旧八日市(ようかいち)市(2005年2月、市町村合併により東近江市)の建築家・池田博昭さんは、「淡海(おうみ)里の家事業協同組合」の仲間たちとともに、「近くの山の木で家を建てる」をテーマに、大工さん、左官屋さん、建具屋さん、製材や木材乾燥などの建築関係者と連携して、市民とともに学習会や現地見学会などを続けてこられました。
 また、山林地主や森林組合の人たちとともに山に入ったり、木材流通の実態も勉強しています。滋賀県内に豊富にある森林資源を活用し、伝統構法を活かして、建築主の思いを共有した魂のこもった家づくりができるように、研鑽を続けてきたのです。

写真4-1 県産材住宅見学会
県産材住宅見学会
(滋賀県八日市の池田博昭さんたちの活動)
(出典)滋賀で木の住まいづくり読本制作委員会『滋賀で木の住まいづくり読本』海青社、2005年
写真4-2 薫煙熱処理丸太
薫煙熱処理丸太
(出典)同上『滋賀で木の住まいづくり読本』
写真4-3 伐採体験ツアー
伐採体験ツアー
(出典)同上『滋賀で木の住まいづくり読本』

 このような先駆的な活動は、近江国(おうみのくに)全体からすれば、まだまだ小さなものとはいえ、各所で着実に動きはじめています。
 犬上川・芹川流域地域圏(エリア)でも、奥山の森から材木を切り出し、乾燥させ、地元の建築家や大工さんたちの手で、木づくりの「菜園家族」や「匠商(しょうしょう)家族」の家が建てられる時代がやってくるにちがいありません。
 そうなれば、森にやりがいのある山仕事が増え、「森の菜園家族」が徐々に復活し、限界集落や廃村に追い込まれた集落も次第に甦っていくでしょう。

 今日の段階では、地方自治体や国は、21世紀の先の先まで見通したこうした新しい動きの意義を認め、本気になって支援する点でまだまだ遅れています。
 先述の市町村に設立される公的「農地バンク」は、国および都道府県レベルに創設されるCSSKとの連携のもとに、「菜園家族インフラ」の主要な要素である住居家屋についても、積極的な経済的支援を行わなければなりません。

 第2次大戦後の西ドイツが行ったような無利子100年ローンの住宅融資を実施したり、地方中核都市の下町や過疎農山村における古民家の改修整備への経済支援、空き家の斡旋をしたりするなど、CSSKメカニズムのもとに、公的「農地バンク」がきめ細やかな支援を行えば、近くの山の木で家を建てる動きは、着実に前進するでしょう。
 そして、こうした施策は、住宅政策にとどまらず、流域地域圏(エリア)の奥山の森林地帯を甦らせ、さらには流域地域圏(エリア)全域に、21世紀の自然循環型共生社会への展望を切り開く、確かな糸口になるのです。

第4章1節・2節の引用・参考文献
吉田桂二『民家に学ぶ家づくり』平凡社新書、2001年
林昭男『サステイナブル建築』学芸出版社、2004年
滋賀で木の住まいづくり読本制作委員会 企画・編集『滋賀で木の住まいづくり読本』海青社、2005年
ウッドマイルズ研究会『ウッドマイルズ 地元の木を使うこれだけの理由』農山漁村文化協会、2007年

       ――― ◇ ◇ ―――

新企画連載「希望の明日へ ―個別具体の中のリアルな真実―」の掲載にあたっては、明らかな誤字・脱字・舌足らずな表現の類い等の若干の訂正以外は、原典『菜園家族21』(コモンズ、2008年)が出版された15年前の時点でのこの地域の実情をそのまま忠実に再現し伝えることを期して、統計資料、地図、文中の統計数字、関連する諸研究の成果などについては、改変を加えることなく、出版当時の通り、そのまま原典から収録することにしました。

2024年2月2日
里山研究庵Nomad
小貫雅男・伊藤恵子

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