連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その10≫

 2021年12月24日に、菜園家族じねんネットワーク日本列島Facebookページhttps://www.facebook.com/saienkazoku.jinen.network/に掲載した、連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その10≫を、以下に転載します。

 なお、新プロジェクト“菜園家族じねんネットワーク日本列島”の趣意書(全文)― 投稿要領などを含む ― は、こちらをご覧ください。

【連載】気候変動とパンデミックの時代を生きる ≪その10≫
 ―避けられない社会システムの転換―

――CO2排出量削減の営為が即、古い社会(資本主義)自体の胎内で次代の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動する社会メカニズムの提起――

◆ こちらから全文をダウンロードできます。
気候変動とパンデミックの時代を生きる≪その10≫
(PDF:309KB、A4用紙2枚分)

朝景

◆明けぬ闇夜はない◆

 この連載で述べてきたCSSKメカニズムは、今日の資本主義社会を起点に、「菜園家族」を基調とするCFP複合社会から自然循環型共生社会(じねん社会)への全展開過程を促す具体的、かつ現実的な方法として提起され、その展開過程の中ではじめて有効に機能するものとして位置づけられています。

 したがって、「菜園家族」社会構想の全体像の中でこそ、理解が深まるものです。とりわけ、拙著『生命系の未来社会論』第三章およびエピローグの中のCFP複合社会とその展開過程に関連する項目、さらに第八章の中の資本の自然遡行的分散過程に関する叙述を合わせ読むことによって、このCSSKメカニズムが地球温暖化による気候変動、地球環境問題の解決、さらにはパンデミックを克服していく上で根源的であり、かつ今日において客観的で理に適った社会的メカニズムであり、方法であるばかりでなく、重篤に陥った21世紀の現実世界を思う時、このメカニズムが内包する役割とその意義の大きさ、その影響の及ぼす奥行きの広さと深さ、そして合理性と現実的可能性からも、その創設の必要緊急性に気づくはずです。

 2019年、日本列島を相次いで襲った未曾有の自然災害。8月の九州北部豪雨、9月に千葉県房総半島を中心に、倒木、停電、断水など甚大な暴風被害をもたらした台風15号、10月に長野県千曲川流域をはじめとする甲信地方、首都圏を含む関東地方、東日本大震災の被災地を含む東北地方など、広範囲に及んだ台風19号による豪雨、河川氾濫、堤防決壊、浸水被害などは、記憶に新しい。
 また、2020年7月、熊本県を中心とする九州地方および長野県・岐阜県などを襲った線状降水帯による記録的な集中豪雨は、各地に大きな被害をもたらしました。

 ここまでに述べたように、IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』は、今後、気候変動によって引き起こされる極端な異常気象、住民を襲う甚大な被害を予測し、今日の社会・経済システムの枠内を前提におこなわれてきたこれまでの地球温暖化・気候変動対策が今や限界に来ていることを、科学的データに基づく知見から警告、示唆しています。
 この連載で提起してきたCO2排出量削減と新たな社会システムへの移行を連動させ、促進するCSSKメカニズムをいよいよ真剣に考え、議論し、実行に移すべき時に来ているのではないでしょうか。こうした根源的な変革をめざす、まさに草の根の民衆運動の到来が、切に待たれるのです。

 このCSSKメカニズムをめぐって、それが現実社会において有効に機能するためには、従来のマクロ経済論はどうあるべきか等々、多岐にわたって具体的に議論が深められていくことになるでしょう。それは、やがて来るべき脱成長時代のマクロ経済学はいかに変革されるべきかという、未来社会を視野に入れた一般原理論的レベルの問題へと必然的に展開していかざるをえなくなるでしょう。

 18世紀イギリス産業革命以来、今日まで支配的であった成長モデルに代わる新たな社会モデルがいまだ確立されていない現状を何とか打開し、今こそ未来への展望を確かなものにしていかなければならない時に来ています。
 2011年3・11福島原発苛酷事故、その後10年におよぶ自然と人間社会への深刻な打撃と引き続く混迷、そして、地球温暖化対策が特に大国間の利害対立によって先延ばしにされ、遅々として進まない中、世界各地で大きな高まりを見せている気候変動の脅威に対する世界の子どもたち・若者たちの切実な声は、まさにこの事態打開の必要緊急性と、そのための私たち自身の主体的力量をいかに培い、発展させていくかという新たな難題を突きつけているのです。

 この現実的・具体的課題に真正面から向き合い、本気で取り組むことから、私たち自身の草の根の21世紀未来社会論の深化ははじまるのです。こうした努力の中から、今日の地球温暖化・気候変動対策の限界、そして、なかんずく現在進行中の新型コロナウイルス・パンデミックの脅威のもとでの人々の思考の混乱、混迷は、必ずや克服されていくに違いありません。

 それにしても、数々の判断の誤りを認めようとはしない為政者の傲慢さ、欺瞞を恥とも思わぬ本性に深く根ざした言動、未来への展望のなさ、無為無策は、驚くべきです。もはや政権担当能力のなさを衆人の目の前にさらけ出した格好ではないでしょうか。
 そんな政治を私たちは、戦後75年ものあいだ許したきたのです。むしろそのこと自体にこそ、私たちの最大の危機があるのではないでしょうか。

 私たちは、気候変動とパンデミックがもたらす地球生態系の破局的危機に直面し、もはや時間は残されていません。だからこそなおのこと、一時凌ぎの糊塗に終わらせてはならないのです。
 たとえ迂遠に思えても、この時を逃すことなく根源的解決へと敢然と立ち向かわなければなりません。さもなければ人類は、この差し掛かった破滅の道から引き返すことは、もはや望めなくなるのではないでしょうか。

 人間の飽くなき欲望の権化、巨大資本という名の妖怪が、命の母なるこの地球におびき寄せたあのおぞましい阿修羅ども。彼ら自らが招いた不穏な事態を口実に、敵愾心を煽り、さらなる軍拡競争へと拍車をかける。暗雲漂う深い闇。
 それでも挫けずひたむきに生きる人々の心に、これまでにはなかった新たな地平から、この闇を引き裂く仄かな光がきっと射し込んでくるのです。

『生命系の未来社会論』(小貫雅男・伊藤恵子、御茶の水書房、2021年3月)第七章をベースに再構成。

―この連載おわり―

(2021.12.24 里山研究庵Nomad 小貫・伊藤)