連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その9≫

 2021年12月20日に、菜園家族じねんネットワーク日本列島Facebookページhttps://www.facebook.com/saienkazoku.jinen.network/に掲載した、連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その9≫を、以下に転載します。

 なお、新プロジェクト“菜園家族じねんネットワーク日本列島”の趣意書(全文)― 投稿要領などを含む ― は、こちらをご覧ください。

【連載】気候変動とパンデミックの時代を生きる ≪その9≫
 ―避けられない社会システムの転換―

――CO2排出量削減の営為が即、古い社会(資本主義)自体の胎内で次代の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動する社会メカニズムの提起――

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気候変動とパンデミックの時代を生きる≪その9≫
(PDF:259KB、A4用紙2枚分)

水面

◆CSSKメカニズムに秘められた近代超克の意外にも高次のポテンシャル◆

 連載≪その6≫で述べたように、排出量取引と炭素税を組み合わせた「特定財源」に基づく新たなCSSKメカニズムのもとで、生産部門におけるCO2排出量と、消費部門における化石エネルギー使用量が次第に抑制されていくのですが、同時に「環境技術」の開発も、このCSSKメカニズムによって促進されていくことになります。
 特にエネルギー生産の具体的方法や技術については、「菜園家族」を基調とするなりわいや暮らしのあり方が国土全体に広がるにつれ、それにふさわしいものが各地に編み出されていくに違いありません。
 CSSKは、再生可能な自然エネルギー、なかでも大型で「高度な」科学技術に頼らない、「中間技術」による地域分散自給自足型の小さなエネルギーの研究・開発、普及を支援し、その結果、CO2排出量のさらなる削減におおいに寄与することになるでしょう。

 ここで再度、確認しておきたいことは、CSSKメカニズムによる「菜園家族」の創出と森と海を結ぶ流域地域圏の再生そのものが、使い捨ての浪費に慣らされてきた私たち自身のライフスタイルと企業の生産体系を、根底から大きく変えていくということです。
 それはとりもなおさず、「環境技術」による「省エネ」や新エネルギーの開発のみに頼ろうとする今日の施策とは比較にならないほど大幅な消費エネルギー総量の削減を、企業のみならず、一般家庭においても可能にします。
 したがって、CSSK方式においては、「菜園家族」創出の事業そのものが、CO2排出量削減の決定的役割を同時に担っているのです。

 CSSK方式では、生産部門と消費部門から還流するいわば「特定財源」によってはじめて、CO2排出量の大幅削減とエネルギーや資源の浪費抑制の多重・重層的、かつ包括的なメカニズムが、全体として有効かつ円滑に作動します。
 つまり、ここで敢えて繰り返し強調するならば、このCSSKメカニズムは、CO2削減の営為が単にその削減だけにとどまることなく、同時に、古い社会(資本主義)自体の胎内で、次代のあるべき社会の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動していくという、意外にも高次のポテンシャルを内包しているのです。
 これが、CSSKメカニズムの優れたもっとも大切な特質であると言ってもいいでしょう。

 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)が掲げる国際的約束、および2018年のIPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』が指摘する目標、そして2021年秋のグラスゴーCOP26で国際的に確認された合意文書、すなわちCO2排出量削減の数値目標も、期限目標も、このCSSKメカニズムによってはじめて、原発に頼ることなく、現実的かつ確実に達成されていくことになるのです。

 生産手段と現代賃金労働者との「再結合」による新しい人間の社会的生存形態である「菜園家族」そのものが、自給自足度が高く、本質的に市場原理に抗する優れた免疫を備えており、CO2排出量削減とエネルギーや資源の浪費抑制の究極の鍵になっています。
 したがって、「菜園家族」を基盤に、20年、30年、50年という長い時間をかけてゆっくりと築きあげていくCFP複合社会は、ますますグローバル化する世界金融や国際市場競争の脅威にもめげることなく、それに対抗する優れた免疫力を発揮しつつ、やがては、人類悲願の抗市場免疫の自律的な自然循環型共生社会(じねん社会)へと着実に熟成していくにちがいありません。

 それはとりもなおさず、外需に過度に依存する、無秩序で不安定極まりない輸出貿易主導型の今日の経済体系からの脱却であり、理性的に抑制された資源調整型の公正な貿易のもと、パンデミックにもめげない健全な内需主導型の異次元の社会経済へと着実に移行していくことでもあるのです。
 そこでは、人間の一人一人の尊厳が何よりも尊重され、自由・平等・友愛の精神に満ちた社会が実現されていくことでしょう。

 私たちは21世紀において、まずこのような方法によって資本主義を超克する新たな社会、つまり、「菜園家族」基調のCFP複合社会を経て、素朴で精神性豊かな自然循環型共生社会(じねん社会)をめざしていくほかに、道は残されていないのではないでしょうか。
 パンデミックの脅威によって混迷を極め、精神的にも沈み込み、ますます閉塞していく今日の社会状況にあって、それを打開する究極の力は、生命系の未来社会論具現化の道であるこの「菜園家族」未来社会構想に基づくCSSKメカニズムによって触発され動き出す、民衆による新たな地域再生の力強いエネルギーであり、まさに草の根の民衆の運動そのものなのです。

『生命系の未来社会論』(小貫雅男・伊藤恵子、御茶の水書房、2021年3月)第七章をベースに再構成。

≪その10≫につづく

(2021.12.20 里山研究庵Nomad 小貫・伊藤)