連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その3≫

 2021年11月20日に、菜園家族じねんネットワーク日本列島Facebookページhttps://www.facebook.com/saienkazoku.jinen.network/に掲載した、連載「気候変動とパンデミックの時代を生きる」≪その3≫を、以下に転載します。

 なお、新プロジェクト“菜園家族じねんネットワーク日本列島”の趣意書(全文)― 投稿要領などを含む ― は、こちらをご覧ください。

【連載】気候変動とパンデミックの時代を生きる ≪その3≫
 ―避けられない社会システムの転換―

――CO2排出量削減の営為が即、古い社会(資本主義)自体の胎内で次代の新しい芽(「菜園家族」)の創出・育成へと自動的に連動する社会メカニズムの提起――

◆ こちらから全文をダウンロードできます。
気候変動とパンデミックの時代を生きる≪その3≫
(PDF:319KB、A4用紙3枚分)

◆今日の地球温暖化対策の限界と避けられない社会システムの転換◆

 この十数年来、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)や主要国首脳会議(G8サミット)などの開催を契機に、こうした科学的知見に基づく地球温暖化対策の議論が、国際的な広がりを見せながら深められるようになってきたのも事実です。

地球

 ただしこうした議論には、際立った特徴が見受けられます。それは、CO2など温室効果ガス排出量削減の対策が、エネルギー効率を上げる「省エネ技術」や新エネルギー技術の開発など科学技術上の問題と、経済誘導策としての排出量取引制度にもっぱら矮小化されていること。
 そして何よりも、産業革命以来の工業化社会の大量生産・大量浪費・大量廃棄型の生産のあり方と、先進国における人間の際限のない欲望と放漫なライフスタイルそのものを根源から問い直し、市場原理至上主義「拡大経済」自体の変革を通じてエネルギー消費の総量を大幅に減少させていこうとする姿勢が、あまりにも希薄なことです。

 かねてより拙著でも指摘してきたところですが、このままでは、いずれ遠からず「環境ビジネス」という名の新たな巨大産業が出現し、ついには21世紀型の新種の市場原理至上主義「拡大経済」が姿を変えて世界を風靡することになるのは、目に見えています。
 「エコ商品」の開発、生産、販売の熾烈な市場競争が繰り広げられ、新たな「エコ商品」の生産が拡大し、国内のみならず、ついには世界市場へと展開していきます。それに伴い、こうした製品の原材料の地球規模での獲得競争が熾烈化し、乱開発による生態系の破壊がますます進行していきます。これでは、廃棄物や温室効果ガスを抑制するどころか、むしろ、増大させる結果に終わらざるをえません。

都会のビル・自動車

 しかも、特に最近、憂うべき傾向として、科学技術至上主義の安易な風潮の中、科学技術への過信がますます強まっています。
 国民生活の隅々にまで及ぶデジタル化を基盤に、AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信システム)によるビッグデータを駆使しての市場コントロール、自動運転車と住宅設備や家電との連結に基づく、自然から隔離され極端に人工化された一見ハイカラな巨大都市「スーパーシティ」構想の野望。
 その行き着く先には、かつての田中角栄の『日本列島改造論』とは比較にならないほど、それをはるかに凌駕する次元での人間欲望の際限のない肥大化、市場原理至上主義のまさに末期症状ともいうべき自然生態系の破壊、国土の荒廃、極端な格差社会、そして何よりも、人心の恐るべき退廃が待ち受けています。

 地球環境の問題は、「浪費が美徳」のこの市場原理至上主義に安住していては、決して解決されることはありません。なぜなら、資本主義の属性とも言うべき資本の自己増殖運動が不可避的にもたらす市場原理至上主義「拡大経済」においては、“景気回復”の方法は結局、消費拡大によって消費と生産の循環を刺激する以外になく、それは所詮“浪費”の奨励にならざるをえない宿命を背負わされているからです。
 それ故に、「21世紀は環境の時代」と言って「地球環境の保全」を声高に叫んでも、その同じ口から“浪費”を奨励しなければ立ち直れない、そんなどうしようもないジレンマに陥らざるをえないのです。

 こうした市場原理至上主義「拡大経済」、つまり資本主義そのものの根本的転換によって、これまでのライフスタイルそのものを根底から変え、人間の飽くなき欲望を抑制し、エネルギー消費の総量自体を減らそうとしないならば、温室効果ガス大幅削減の目標達成のためには原発に頼るのもやむなし、とする危険な議論に陥ってしまいます。

子供の表情

 昨2020年10月26日、菅義偉首相(当時)は、就任後初の所信表明演説の中で、2050年までに日本が温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。
 その鍵として、次世代型太陽電池やカーボンリサイクルなどの革新的なイノベーション、省エネルギーの徹底、再生可能エネルギーの導入を挙げるとともに、「安全最優先で原子力政策を進める」としました。

 グリーン投資を普及させ、世界のグリーン産業を牽引し、「経済と環境の好循環」をつくり出す。それが大きな成長につながるとする発想。そこには、日本をはじめ世界の市民たちの気候変動および原発に対する深い危機感への共有意識もなく、従来の「拡大経済」への根源的反省は微塵も見られません。
 これでは「グリーン」の名のもとに、地球生態系の破壊がますます加速するばかりではないでしょうか。実際、菅政権(当時)の下で、新型コロナ・パンデミックのさなかにも関わらず、原発の再稼働、新増設のたくらみすら取り沙汰される始末でした。

 その後、菅政権の支持率は急落。それまでのイメージを一新するかのような「新しい資本主義」、「成長と分配の好循環」、「デジタル田園都市構想」などを掲げる岸田文雄氏が、2021年10月4日、新首相に就任することになりました。
 しかし、岸田政権の推進する成長戦略は、本質的には安倍・菅両政権と何ら変わるところはなく、「気候変動などの地球規模の危機に備える」(2021年10月8日所信表明演説)としながらも、結局は、“浪費”を奨励しなければ立ち直ることのできない、従来型の「拡大経済」に陥らざるをえない宿命にあるのです。

 連載≪その2≫で紹介した、2018年のIPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の警告、そして、2021年秋のグラスゴーCOP26合意文書の「世界の平均気温の上昇を産業革命前より1.5℃に抑える努力を追求する」という、事実上の新たな国際目標を真っ正面から受け止め、それを本気で行動に移そうとするならば、今こそ私たちは、気候変動と脱温暖化をめぐるこれまでの科学的知見と国際的議論の到達点、およびその理論的、実践的成果をしっかり組み込むと同時に、より根源的な視点から、環境問題の原点に立ち返り、エネルギーと資源の浪費の元凶である資本主義そのものの変革という、いわば社会経済システムの側面を敢えて重視し、それこそ心機一転して、新たな時代にふさわしい、より包括的で多面的な、かつ実現可能な理論の構築とその実行に着手しなければならない時に来ているのです。

『生命系の未来社会論』(小貫雅男・伊藤恵子、御茶の水書房、2021年3月)第七章をベースに再構成。

≪その4≫につづく

(2021.11.20 里山研究庵Nomad 小貫・伊藤)